2)動作姿勢(関節角度)
 上半身の引き上げ局面は,体位変換動作中,最も負荷のかかる局面であり,前述の上肢の筋電図においても最大振幅が得られている.本研究では,介護者が腰をかがめて最も姿勢を低くする時点(前半)と,徐々に姿勢が高くなり,体幹−大腿角度が最大となる時点(後半)の2点で動作姿勢を比較した(図5).
  また,10回の動作のうち,1回目,5回目および10回目の動作を抽出し,経時的な変化がみられるか否かを確認した.図6に示すように,体幹−大腿角度は,前半が平均62〜64度,後半が平均80〜90度であり,各回で有意な差が認められた.3回分の平均差は,21.6度であった.膝関節角度に関しては,前半と後半の差はみられなく,前半が平均135〜141度,後半が平均142〜145度であった.これらのことから,上半身引き上げ局面における姿勢変化は,主に体幹の位置変化によるものであり,今回の実験条件と同様な平らなベッドサイドでの体位変換動作では,体幹が約20度の範囲で変動することが明らかとなった.
3)心拍数
 心拍数は,今回行った介護動作の連続動作が循環器系におよぼす負担度を示すものである.実験開始前の安静時には平均70.5±4.6 拍/分,動作終了直後には,平均98.2±10.5拍/分であり,心拍数の有意な上昇が認められた(p<0.05).
したがって,今回の連続体位変換動作は,上肢の筋持久力を鍛えるとともに,10回の動作を数セット行うことで,循環器系に対してもトレーニング効果を与える負荷であることが示唆された.

【まとめ】
 2004年度に行った体位変換に関する実験の結果から,次のことが明らかになった.

  • 筋放電量からみて,上肢筋は体位変換動作において重要な役割を果たしている.
  • 連続動作の後半には,下肢の筋肉の活動量が増加する.
  • 体幹筋肉の放電量は他の部位に比べて少ない.
  • 最大筋力発揮時の筋放電量と比較すると,体位変換動作は,概ね,80%以下の筋活動となり,トレーニング習慣を有している者ほどその割合が低くなる.
  • 体位変換における上半身引き上げ局面では,体幹−大腿角度の変化が大きく,約60度(前半時点)から80度(後半時点)へと変化する.
  • 10回の繰り返し動作中,体幹−大腿角度ならびに膝関節角度の変化は各回でほぼ一定である.

 

  • 体位変換の10回繰り返し動作は,心拍数を約30拍/分(対安静値)上昇させるため,数セット繰り返すことで,持久的なトレーニングとして活用できる.

【今後の研究予定】
今回の実験における被験者数を増やすとともに,ベッドから車いすへの移乗動作について同様な手法で測定,分析する予定である.また,動作における個人差が大きいため,練習を経た後の分析は,効果(影響)が同定できる循環器系の応答のみの分析とする.2005年度においては,中高年者を対象に同様なプロトコールで実験を行う予定である.

参考文献
1) 時岡孝光, 高田敏也 : 在宅介護者の腰痛調査. 日本職業・災害医学会雑誌, 50, p409-412 (2002)
2) Lee YH, Chiou WK. : Ergonomic analysis of working posture in nursing personnel: example of modified Ovako Working Analysis System application. Res Nurs Health, 18, p67-75 (1995)
3) Garg A, Owen B, Beller D, Banaag J. : A biomechanical and ergonomic evaluation of patient transferring tasks: bed to wheelchair and wheelchair to bed. Ergonomics, 34, p289-312 (1991)
4) Owen BD, Garg A. : Reducing risk for back pain in nursing personnel.
AAOHN J, 39, p24-33 (1991)
5) Kjellberg K, Lagerstrom M, Hagberg M. : Patient safety and comfort during transfers in relation to nurses' work technique. J Adv Nurs, 47, p251-259 (2004)
6) Kjellberg K, Lagerstrom M, Hagberg M. : Work technique of nurses in patient transfer tasks and associations with personal factors. Scand J Work Environ Health, 29, p468-77 (2003)

HP
a) http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa
/k-tyosa03/1-2.html
b) http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kaigo
/setai00/kekka-3.html
c) http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa01/3-3.html

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