高齢者用コミュニケーション杖システムの開発

情報社会科学部教授 山羽 和夫 (工学博士)


1. はじめに

 最近, 高齢者の交通事故があとをたたず, 特に, 夜間の交通事故は時として交通弱者を一層, 悲惨な 結果をもたらしている. 一般に高齢者は若い健常者に比べて足腰が弱く, 反応時間なども遅く, さらには 黒っぽい衣服を着る傾向もあり, 何かの拍子に転倒した際も車の運転者から転倒している高齢者を発見し にくいのが現状である. 転倒した高齢者を事故から守る 1 手段として, ここでは高齢者用コミュニケー ション杖システムを設計・試作し, その可否について検討した.

2. コミュニケーション杖の概要

 図 1 に試作したコミュニケーション杖の外観写真を示す. また, 表 1 にコミュニケーション杖の概略 仕様を示す.  表 1 に示すようにコミュニケーション杖の全体重量を1.2kg以内を目標とした. これは高齢者, 中でも 腕の力の衰えた女性が杖として重荷にならない限界で, 電池重量を含めても, 高齢者がそれほど問題とは しない重量である. 重心位置についてはコミュニケーション杖の高さ(84cm) のほぼ中央に来るよう設計 した. (計測の結果,下から49cmの高さに重心がきた.)


また, 材料について, ここでは本体の部材として十分軽量になり, かつ加工しやすいアルミニウムを採用 した. 人体の指の摩擦係数が筆者の過去の研究から 1.5〜5 の範囲にあることが分かっているが, 特に, 指先に握力がなくなってきている高齢者の場合には, 摩擦係数が 1.5 以下になる可能性があり, それより もアルミニウムの摩擦係数が小さいため, 握力の弱った高齢者でも掴み易くなるよう,かつ,摩擦係数が 小さいことによる滑りが発生しないようにその形状において以下の点を考慮した. それは, 外側の直径が 2.5cmのアルミニウムの円筒 (円筒の周囲長:7cm) に, 手の握りに合わせるよう R (カーブ) を持たせて (図 1 で高齢者が手で握っている部分) 握りやすい構造にすることで,さらに,それに3mmの幅で約1mm の深さの溝を横方向 (円筒の縦方向) に切削加工した.
図1 高齢者用コミュニケーション杖の外観写真
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