この学習意欲を汲み上げなければならない. 意欲さえあればパソコンが使えないなどということがあるはずがないのである. 実際に高齢者にパソコンが使えないという理由を見出すことの方が難しい. あえていうと1)キーボードに対する不慣れ2)ディスプレイのような発光体画面でのやり取りに対する不慣れと文字の小ささ3)ローマ字かな漢字変換がわからない4)おびただしいトラブルが自分の経験の無さのせいではないかと考えてしまう, などである. 他にもあるがここでは長くなるので省略する. しかし, これらはいずれも若干の練習によって解決できることばかりである. とするとパソコンが若年者の占有物であり, 高齢者に不適と考える理由は何もない.

シニアネット発足からの経緯

 具体的活動としては日本福祉大学生涯学習センターで, シニア向けパソコン講座を開くことで, この実験のスタートとすることとした. それ以降の経緯をまとめると以下の通りである.
 96 年7月 「シニアのためのパソコン講座」を受講(4 日間), 受講者 40 名
 96 年 12 月〜 学生グループによる戸別訪問(4回), ハンディネットへの接続
 97 年2月 グループ内での学習会, ネット上での交流が始まる.
 97 年4〜6月 学生による 「Word」 の勉強会を行なう(全 7 回)
 97 年5月 ホームページ作成を企画, ホームページ作り相談会を 10 月まで6回行なう.
 97 年7月 2期生の「シニアのためのパソコン講座」を開催
 97 年5月〜7月 「インターネット自由自在」講座受講
 97 年8月〜9月 「とことんホームページ」 ホームページ作成講座受講
 97 年 11 月 ホームページ第1期完成, 本学・情報社会科学部祭 「WAIWAI 97」 で発表
 現状ではシニアネットが小規模ではあるがスタートし拡大の兆しを見せている.
 別にパソコン講座の開催時にアンケート調査を行なったところ, "生きがい" を求める声や "やる気の高さ" を調査結果に見ることができた. しかし, メンバー構成は生涯学習講座の受講生で, もともと学習意欲の高い構成員からなっているため, この結果がそのまま一般の中高年層にも当てはまると考えるべきではないかもしれない.

地域社会での新たな連帯

このシニアネットのホームページが一応完成を見たことは喜ばしいことである. その内容を見ると, 年輪の深さを思わせる内容のものが随所にあり, よくある一般の個人ページのような単なる自己満足だけではないことがわかる. 今後は表現の問題や全体の方向をどのように持っていくのかという基本的問題に取り組まなければならないが, コンピュータに全く知識のないメンバーが短期間にここまでこれたことに関係者は驚きを感じた次第である.
 冒頭の情報化と高齢化という観点からは, 特に情報化に関連しているハードソフトの企業には今後多いに発言をしていく必要がある. 既製品に自分の身体を合わせていくような弱い立場にいたくはない. 短期間にしばしばバージョンの変更を行なうソフト企業の製品には困ったものだと思う.
 次にシニアネットの目的であるが, 地域への貢献, 健康や仕事, 趣味にたいする情報交換, コミュニケーション手段の開発等がある. 日本の高齢者の社会参加は消極的であると言われているが, これを少しでも改善していく力がネットを利用する効果としてやがて証明できるのではないだろうか.
 集団としてのかかわりでいうと, 情報化意識の高い学生グループによる支援のように異質の若年集団が協力する. シニアグループがまた次世代を育てる等の効果が既に現れている. これは地域社会での新しい連帯といえる. さらにここで養成されたシニアメンバーがネット社会でリーダーとして活躍することが期待される.
 中高年, 老年と年代層が数十年におよぶこの階層に新しいビジネスの創造も含めて情報化の新しい光を当てる必要がある. 今までにない可能性を残していると感じられる.
 最後に研究ノートという立場から日本の高齢者のおかれている立場に視点を当てると, 1)コミュニケーションの社会心理学的な研究 2)高齢者を対象にした情報化進展へのリテラシー向上支援 3)シルバーマーケットの研究 4)NPO としてのネットの運営法 5)社会参加への機会創出のためのイベント研究等のテーマが考えられる. その際シニアネットからの情報収集やネット上での実験調査を行ない, その結果を通してネットワーク社会, 高齢化社会への新たな方策を検討することができるのではないかと考えている.

 終わりにここで紹介したシニアネットの URL を記載する. 一度参照されたい.
http://www.lec.handy.n-fukushi.ac.jp/senior/

【引用文献】 1) 通産省生活産業局:高齢社会対応型産業の研究 (1996) 

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