はじめてのふくし21版
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2「いのち」 20世紀は、戦争の世紀といわれました。そして、21世紀の今日も、宗教や民族のちがい、国と国の利害が衝突して、世界各地の戦争は簡単にはおさまりそうにありません。UNHCR本部の発表によると、紛争や迫害により故郷を追われた難民は1億840万人といわれています(2022年末時点)。戦争と貧困、飢えで亡くなる人の数は想像できないくらいたくさんいます。 一方、世界の人口は、2000年にはすでに60億人を超え、2022年11月15日に80億人に到達。21世紀半ばには97億人に達するといわれています。とはいえ、第二次世界大戦後の途上地域における、人類史上まれにみる急速な人口増加とそれによる開発等による問題は、地球の持続可能性に大きな影響を与えています。合計特殊出生率は、西部・中部アフリカでは5.2(2018年)、東部・南部アフリカは4.2(2018年)となお高水準であり、このような地域ではたとえ戦争がなくても貧困や環境破壊、民族紛争、エイズ感染など、多くの「いのち」がおびやかされる問題をかかえています。 また2019年12月31日に原因不明の肺炎の集団感染事例として世界保健機関(WHO)へ報告された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は全世界で猛威をふるい、感染者数は約7.64億人、死亡者数は約691万人だと報告されています(2023年4月現在)。このようなコロナ禍では、高齢者や障害者や基礎疾患持つ方々、ワクチンが行き渡るのが遅い国の人々などが高いリスクにさらされました。 本当の「平和」とは、戦争がないということだけでなく、地上のだれもが安心して明日を信じて生きられることではないでしょうか。 アジアで初めてノーベル経済学賞を受賞したインドのアマルティア・センは、「社会的コミットメント(約束、義務、責任を果たす)」という考え方を示しました。センの考え方をわかりやすくまとめて紹介します。 センは、人間には2種類の「自由」があるといいます。ひとつは自分の「ふくし」を向上させる自由です。もうひとつは、場合によっては自分の「ふくし」を犠牲にしてでも、危険にさらされている他人を救おうとしたり、社会正義のために行動する自由です。他の人たちの願いを自分の使命として進んで引き受けることも、人間として大切な「自由」だというのです。そして、これらの自由を支える条件をととのえるのが、各国の政府や国際社会の役割なのです。[参考文献:アマルティア・セン原著、大石りら翻訳『貧困の克服−アジア発展の鍵は何か』(集英社新書、2002)]6

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