はじめてのふくし21版
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3「ふくし」の課題とその解決策を考えてみましょう33ビッグイシューは1991年にロンドンで生まれ、世界各国に広がっています。日本福祉大学を卒業した水越洋子さんは、その創設者に会うためにイギリスを訪問し、帰国後、大阪の佐野章二さんとともに『ビッグイシュー日本版』の発行を始めました。2003年のことです。水越さんは現在、ビッグイシュー日本の共同代表であり、日本版の編集長を務めています。ビッグイシューは月2回発行され、北は北海道から南は九州まで、多くの町で売られています。ホームレス状態になったが「よし、この仕事をやってみよう」と思う人は、1冊220円で仕入れ、路上で450円で売ります。1冊売れれば230円の利益。もし1日に20冊売れれば、その日はなんとか簡易宿泊所に泊まり、空腹をやわらげることもできるでしょう。30冊以上売れれば、少しずつ貯金し、アパート入居を果たすことができるかもしれません。ビッグイシューは、このようにしてホームレス状態の人に仕事を提供し、自立を応援する事業です。有限会社ビッグイシュー日本のように、ビジネスの手法を用いて社会問題に取り組む会社を「社会的企業」といいます。一方、ビッグイシューの販売者は、この会社に雇われているのではありません。一人ひとりが明日の販売戦略を考え、自分の判断と手持ちの資金で仕入れた雑誌を売るのです。つまり彼らそれぞれが、自営の販売代理店といえます。では、孤立して自己責任で売っているかというと、それも違います。名古屋の繁華街でこの雑誌を販売していたある高齢女性は、ある日、寂しそうな若い男性から「握手してください」と声をかけられ、手を握ってあげると、彼は「ありがとうございました」と丁寧にお辞儀をして去ったそうです。実はビッグイシューの連載記事の中での人気のひとつは、読者からの人生相談に販売者が答える欄なのです。路上の販売は、販売者同士の励ましあいによって支えられるとともに、町の人、購買者、読者たちとの交流をつくりだす場ともなっています。そういう社会関係回復によってこそ、暑い日差しの下で、また寒風にさらされる中で、路上販売という厳しい仕事を続けられるのです。ビッグイシュー事業は、ホームレス当事者の所得だけでなく、こうした社会参加への道筋を復活させることに、大きな意義があるといえるでしょう。© 2004 Nihon Fukushi Universityビッグイシューの活動みなさんの町でも、『ビッグイシュー』という雑誌を街角に立って売っている方々を見かけるのではないでしょうか。これは住まいを失った人たちが自分の生活再建を目指して販売する雑誌です。10

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