Q8
最近お茶を飲むときにむせることがたまにあります。
心配ありませんか。

A

 私たちは口やから気管支・肺に空気を吸い込み、また口から食べ物や水を飲み込んで食道・胃に送っています。空気と飲食物は口から舌の奥までは共通の経路を通りますが、その後空気はのどの前側に、食物は後ろ側に分岐し、それぞれ気管と食道に分かれて肺と胃に流れ込みます。私たちの体は舌、上あご、声帯のある喉頭、喉頭の後ろにある下咽頭、食道の入り口を、わずか1~2秒の瞬間に精緻なタイミングで順番に動かすことでスムーズな飲み込みをしています。この動きのタイミングがほんの少しでもずれると、食物や水が喉頭や気管に誤って入ってしまいます。これを誤嚥(ごえん)といいます。喉頭や気管に食物や水が入ってしまうと、それを出そうとする咳反射が起こり、むせ込みが生じます。

 食べ物や水をうまく飲み込めなくなる症状を嚥下(えんげ)障害といいます。嚥下障害は上あごやのど、食道を動かす筋肉や、筋肉に指令を伝える神経や脳の異常で起こります。水を飲み込む時にたまにむせる症状は軽度の嚥下障害と考えられ、加齢による、のどの筋肉の衰えが原因となることが時にあります。しかし、むせが頻繁にみられる場合は、単純な筋肉の衰えだけではない他の筋肉、神経、脳の病気が隠れている可能性が考えられます。これらの病気には脳梗塞や脳出血の後遺症、アルツハイマー病やパーキンソン病などの脳神経変性疾患、全身の筋肉の萎縮が進行する病気などがあります。

 1日に 1 度以上のむせがある場合は、まず耳鼻咽喉科を受診することをお勧めします。耳鼻咽喉科では口の中やのどの診察を行ったうえで、水やゼリーを飲み込んでいただきながらファイバースコープでのどの中を食べ物が通っていく状態を観察する嚥下内視鏡検査を行います。嚥下内視鏡検査では飲み込んだ後にも水やゼリーの一部がのどに残ってしまう、気管に飲み込んだものが流入してしまう異常がみられれぱ、対策が必要となります。

 軽いむせを予防するためには、日ごろから積極的におしゃべりや歌を歌うことで舌やのどの筋肉を鍛える、散歩などの適度な運動をして全身の筋肉の衰えを防止する、食事中は背筋をまっすぐにして、顎を少し引いた姿勢で飲み込むように心がける、とろみの付いた飲み物や食べ物を選択するなどの対策があります。

 高度の嚥下障害では、食事のたびにむせる、食事に時間がかかる、食後に声がかれたり、のどのあたりでゴロゴロ音がする、食後に痰や咳が多くなる、硬いものが飲み込めないなどの症状があらわれます。
このような症状がみられたらなるべく早く医療機関を受診することが必要です。

 激しくむせると一瞬息ができなくなってしまい、とても苦しく感じますが、逆に言えば、むせは咳き込むことで気管に流れ込みかけた食物を外に出そうとする防御反射が正常に働いている証拠です。咳反射を起こす神経の働きが鈍ると、誤嚥してもむせが起こらなくなります。これは大変危険な状態です。私たちは食事の時にだけ嚥下をしているわけではなく、24時間絶えず唾を飲み込んでいます。むせが起こらないと寝ている間に飲み込んだ唾は容易に気管から肺に入り込んでしまいます。正常なヒトの口の中には細菌が住んでいますが、唾には細菌の増殖を抑える免疫物質が豊富に含まれるため、異常な増殖はしません。しかし免疫機構が脆弱な肺に口腔内の細菌が侵入してしまうと、肺炎を起こしてしまうことが時にみられ、誤嚥性肺炎と呼ばれます。高度の嚥下障害がべースにある誤嚥性肺炎では、栄養状態の低下による免疫機能の異常も伴うことがしばしぱあり、肺炎を繰り返すと生命の危険に直面するケースもしばしばあります。
むせが心配な方は是非耳鼻咽喉科の受診をお勧めします。