お知らせ

テーマⅡ・Ⅴ採択校共催のシンポジウムを開催しました

 本学は、平成28年度文部科学省「大学教育再生プログラム」(以下、AP)のテーマⅤ「卒業時に「おける質保証の取組の強化」に採択され、学士課程教育の一層の実質化を図るべく様々な取組を展開しています。また、本学はテーマⅤの幹事校を務め、テーマⅤ採択校(本学含め19校)とともに、各校の取組がよりよいものとなるよう研究会等を行っています。

 この度、2019年2月20日(水)に大阪工業大学梅田キャンパスの常翔ホール(大阪市北区)にて、テーマⅡ・Ⅴ採択校共催によるシンポジウムを開催し、「大学教育再生加速プログラム」の採択校を始め、全国の高等教育機関、企業等から234名が参加しました。
 テーマⅡ「学修成果の可視化」とテーマⅤ「卒業時における質保証の取組の強化」の共催シンポジウムは昨年度に続き2回目ですが、今回は「社会が求める高等教育の質保証を考える」をテーマとし、各大学で進む学修成果の可視化や卒業時の質保証の取組について、社会のニーズや評価といった観点から検討を加え、その有効性をより高めていく契機となるよう企画したものです。

 テーマⅡ幹事校である北九州市立大学 柳井雅人副学長の挨拶で開会し、一般社団法人 大学資産共同運用機構 理事長の河田悌一氏、文部科学省 高等教育局 大学振興課 大学改革推進室改革支援第二係長の河本達毅氏より来賓挨拶をいただきました。河田氏からは、AP事業の進展を振り返るとともに、その成果が社会的にも可視化されてきていることをご紹介いただきました。河本氏からは、AP事業を通して明らかになった課題は新たな時代の高等教育に向けた挑戦と捉えるべきであり、その知見を共有できることにAPの意義があると、大変力強いお言葉を頂戴しました。

来賓挨拶
(平成29年度大学教育再生加速プログラム(AP)委員会
委員長 河田悌一氏)

来賓挨拶
(文部科学省 高等教育局 改革支援第二係長 河本達毅氏)

 基調講演には、大阪大学 高等教育・入試研究開発センター センター長の川嶋太津夫教授をお招きし、「内部質保証と学修成果の可視化による教育の質保証に向けて」をテーマにご講演いただきました。透明性が求められる現在の高等教育において、保証されるべき「質Quality」自体に様々な考え方があるなか、教育プロセスを改善するQuality Assuranceだけでなく、学修成果の管理というQuality Controlの考えが社会的に強まっていますが、大学にとって学修成果の質のコントロールは実際には困難です。そこで、コントロール可能な教育プロセスや学習機会の質を改善することで、学修成果の「水準Standard」を満たす確率を高めるべきであり、そのために学生が何をどれだけ身に付けたかを把握し社会に正直に公表する「学修成果の可視化」が必要になると、川嶋教授は指摘しました。さらに質保証の3層構造(各大学の内部質保証システム、認証評価等の外部質保証、質保証機関自体の質保証)と内部質保証の内容や基準等について、ヨーロッパにおけるガイドライン(ESG)や日本の外部評価機関の基準などをもって説明がなされました。内部質保証の具体的なあり方として、大学としての目標・GoalからPlanが作られ、そこからPDCAサイクルを回すとともに、各大学の教学IRや外部評価がサイクルのCheckに作用するモデルが示されました。最後に、学修成果の可視化におけるアセスメントの重要性が指摘されました。学習成果獲得の検証(アセスメント)のみならず、その結果の解釈とその後の必要な意思決定(エバリュエーション)まで行う必要があると指摘した上で、アセスメントの意義やレベル、情報公開のあり方、アメリカの大学の事例などが紹介されました。川嶋教授の講演を通して、質保証や学修成果の可視化の意味や意義などをあらためて整理し構造的に把握することができました。これらの取組が各大学で盛んに行われているなか、さらに社会的な評価などに向き合っていくにあたり、大変貴重な知見を共有することができたといえます。

 続く事例報告では、テーマⅡより新潟工科大学 工学部 飯野秋成教授が登壇し、同大学が導入した「NIIT達成度自己評価システム」の取組状況について、実際の画面やデータのイメージも示しながら具体的な報告がなされました。システムで学修成果を統合的に可視化し、学生のPDCAを促進することは、教学マネジメントの向上にも寄与するものといえます。
 テーマⅤからは本学 全学教育センター長 中村信次教授が、このテーマの核となる取組である「ディプロマ・サプリメント」(学生ごとの学修成果と到達度を提示する書類)について、採択各校の取組状況とそれぞれの特徴を報告しました。教員負担やデータの信憑性といった課題もありますが、学生の就職先へのアンケートなどでは、肯定的意見とともに大学間の様式統一の必要性などの課題も指摘されていることを紹介しました。
 さらに、そのような「ディプロマ・サプリメント」の社会的評価について、株式会社リアセック 代表取締役CEOの松村直樹氏より調査報告がなされました。企業人事への調査では、概ね肯定的に評価されながら、実際の採用選考への活用にはまだ消極的意見が大勢です。ただし、「ディプロマ・サプリメント」による学生コンピテンシーの共通一覧化・可視化が、企業の採用活動に有効に作用する可能性があることが、採用コンサルタントへのヒアリングからうかがえます。今後の利活用に向けては、大学側が主体となった学修履歴情報の継続活用のための第三者機関設立が必要と、最後に提起されました。

基調講演(大阪大学 川嶋太津夫教授)

事例報告(本学 中村信次教授)

 プログラムの最後のパネルディスカッションでは、テーマⅤ採択校の大阪工業大学 教育センター長の椋平淳教授がコーディネーターを務め、「社会が求める大学教育」をテーマに議論しました。ディプロマ・サプリメントの活用や有効性について盛んに議論が行われましたが、厳正な評価や共通尺度等に対する慎重な意見や、内部質保証を伴ったカリキュラムによる学修成果を説明するものと捉えるべきと、その本質を指摘する意見も出されました。フロアからも真摯な質問や意見が多数寄せられ、このテーマをさらに深く掘り下げることができました。
 最後はテーマⅤ幹事校の本学 山本秀人副学長からの挨拶で、盛会のうちに閉会しました。「学修成果の可視化」と「卒業時における質保証の取組の強化」、この二つのテーマを今回社会的視点から考察したことは、AP採択各校の取組への反映にとどまらず日本の高等教育における論点や課題をよりいっそう明確にし、共有することにつながったといえます。

パネルディスカッション

会場の様子