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取組レポート② 東日本国際大学

取組レポート② 東日本国際大学

 2019年2月28日、テーマⅤで先進的な取組を行っている、東日本国際大学の関沢和泉 准教授にお話を伺いました。今回の取組報告レポートでは、ディプロマ・ポリシーと各授業の到達目標をボトムアップでつなげるための同大の取組を中心に報告します。

 

 東日本国際大学では、ディプロマ・ポリシーと各授業とをつなぐ架け橋として、「コンピテンシー表現バンク」と「ICEモデル」という2つの特徴的な仕組みを利用されていました。

 コンピテンシー表現バンクは、教育プログラム・機関レベルで設定されるディプロマ・ポリシーと各授業の教育目標を繋ぐものです。ディプロマ・ポリシーに表現される「リーダーシップ」や「批判的思考力」といったコンピテンシーは、一般に抽象的で、具体的に何ができることを示しているのか解釈が分かれ、測定も難しいものです。そこでディプロマ・ポリシーのそれぞれのコンピテンシーを、「~できる」という、言語学の分野で言われるCan-doステートメントの形で日常的な動詞表現に具体化し、各授業レベルの到達目標として使える形に落とし込んだ貯蔵庫を作っています。これにより、抽象的なディプロマ・ポリシーレベルで設定されたコンピテンシーを、学生が自分の目標として理解し、地域の皆さんとの話し合いに使用できる言語に変換することを行っています。

 

 ICEモデルは、教育目標のタキソノミー(分類)の一種です。既存のタキソノミーには複雑なものも多かったのですが、ICEモデルは、カナダのクィーンズ大学のスー・ヤング博士らがそれらを分析したうえで、「つかむ=IDEAS:個々の要素的知識・スキルの把握」、「つなぐ=CONNECTIONS:要素間の接続や既習の要素との接続、体系的な理解」、「つかう=EXTENTIONS:構築した体系の未知の状況への適用」という3カテゴリーへと分かりやすく整理したものです。この学びの深まる方向を示すICEモデルを介することで、ディプロマ・ポリシーに表現され、表現バンクの動詞表現へと分解されたコンピテンシーは、構造化された形で各授業に埋め込まれます。各授業の到達目標は、各授業レベルで、カリキュラムレベルで、これらICEモデルとコンピテンシーをもとに整理されるわけです。

 

 各授業の設計の見直しという視点で見てみましょう。まず、その授業の到達目標をコンピテンシー表現バンクの助けを借りながら慎重に分解していきます。そしてそれぞれがICEモデルのどの段階にあたるのか、どのコンピテンシーに紐づけられるのか、と構造化していきます。これにより、その授業で学ぶ内容を通じて、学生にどこまで高次の能力を伸ばすことを期待しているかが明確になります。こうした見直しを全学的に実施したところ、きちんとした授業設計を普段から行っている授業では、学生に基本的な要素を伝え、要素のつながりを明確化し、どう異なる例に使えるか、またそれらを通してコンピテンシーの育成に繋がるか、自分の講義がICEモデルのつくりになっていたと気づいたという声も少なくなかったとのことです。

 

カリキュラムレベルでも、こうして再検討されたICE1年生の講義から4年生の講義までを並べてみると、1年生ではIの段階に到達目標が多く書かれているのですが、2年生、3年生、4年生と学年が上がっていくたびに、CやEの割合が増えていきます。学習・学修の深化のプロセスが可視化され、教育の質の保証に繋がるのだと感じました。

 

このように、各授業に具体的な形でディプロマ・ポリシーが埋め込まれ、達成度が評価されることで、ディプロマ・サプリメントにディプロマ・ポリシーに対する学生の力が可視化され、社会に示されることになります。テーマⅤ採択各校で開発されたディプロマ・サプリメントでは、総評にあたる部分に教員からのコメントを掲載することにしている大学もありますが、東日本国際大学では、学生自身が、四年間蓄積してきたポートフォリオと以上のように蓄積されてきた学修成果のエビデンスを元に記述し、それを教員と共に練り上げるといった特徴がありました。これは、ICEモデルや、コンピテンシー表現バンクといった、学生にも分かりやすい仕組みを利用することによって、学生ともディプロマ・ポリシーが共有されているから可能なのだと感じました。なお、コンピテンシーの評価をより正確なものにするため、これまでも行ってきた学年内のゼミを横断したスピーチコンテストやプレゼンテーションなどの評価基準についても見直しをされているとのことです。

 

 今回、取組についてインタビューさせていただき、大学としてこれらのことに取り組む上で、各教員の理解に対して非常に丁寧に対応されているところが印象的でした。たとえば、2017年度のFDでは、教務委員が実際に試した結果、難しかった点を共有し、2018年度のFDでは、実際の授業の到達目標を書きだしてもらい、ICEや能力と紐づけるようなワークショップを実施していました。いきなり各授業の到達目標をICEモデルに落とし込むことはせず、まずはICEモデルを意識せずに、測定できる形での到達目標に書き直すようにされていました。その上で、全員が受け持つゼミの中でモデルを提示し、修正してもらう形でICEモデルの導入を依頼されていました。また、それらの前提となるディプロマ・ポリシーに関しても、就職先や外部評価委員会の声や卒業生・在学生の能力調査データを教員全員で共有しながら見直す全学FDを行い、その成果をさらに各学部で見直す過程を経て改定しており、誰かが書いた文章でディプロマ・ポリシーを終わらせたくなかったとのことです。

(聞き手:日本福祉大学 全学教育センター 教授 中村信次、助教 村川弘城)

 

関連リンク

東日本国際大学 事業概要
https://www.n-fukushi.ac.jp/ap-portal/summary/?mode=detail&entryID=14

 

東日本国際大学 関沢和泉准教授への取材の様子