36℃の言葉。あなたの体温を伝えてほしい。 2017年度 日本福祉大学
第15回 高校生福祉文化賞 エッセイコンテスト入賞作品集
学長メッセージ
審査員の評価と感想
入賞者発表
第1分野 ひと・まち・暮らしのなかで
第2分野 スポーツと わたし
第3分野 日常のなかで つながる世界
第4分野 社会のなかの「どうして?」
学校賞
 
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入賞者発表
第2分野 スポーツと わたし
最優秀賞 全てにゲームセット
北海道札幌南高等学校 1年 清水 将也

 「長かった審判生活も、もう終わりです。みんな本当にありがとう」
 震える声で告げた感謝は、僕ら選手に向けられていたようで、実は「野球」そのものへ向けたものだったのかもしれない。
 僕が所属していた少年野球チームがいつもお世話になっていた審判長の田中さん。公平でミスのない判定には定評があり、野球選手のみならず、地域全体から慕われる元気なおじいさんだった。しかし、九十歳を過ぎ、突然癌になり、余命わずか半年の宣告を受けたのだ。田中さんは死ぬまで審判を続けるつもりでいたが、体が言うことを聞かず、ついにこの日の試合を持って引退、と言う決断に至ったのだった。
 審判としてのラストゲーム。いつも通り元気な「プレイボール」が球場いっぱいに響き渡る。ラストゲームが始まった。
 試合は両チームミスのない接戦となり、田中さんの完璧とも言えるジャッジも光る好ゲームであった。しかし終盤崩れた僕のチームが一点を取られ、追いかける形で最終回を迎えた。そして偶然にも僕はこの試合、並びに田中さんにとってのラストバッターとなったのだった。
 バッターボックスに入る前、田中さんに一礼した僕は、その目に光るものを見た。それは野球に別れを告げることの辛さの象徴のようで、僕は少しでも長くこの場にいさせてあげたいと思った。そのためには、ヒットを打たなければならない。
 しかし僕の渾身のスイングは報われず、白球は相手捕手のミットへ収まった。そしてそれと同時に、
 「ストライク、バッターアウト。ゲームセット」
 という全てに終わりを告げる一言が放たれた。挨拶が終わった後、僕たちの試合を、そして田中さんの審判生活を讃える拍手が観客中から巻き起こった。田中さんは涙を流していたが、そこには笑みがあった。それは野球への愛、そのものだった。
 その後田中さんは、余命宣告の半年より少しはやく亡くなった。僕はあの笑顔以上に美しいものをまだ知らない。

講評

 審査員の多くがこの作品を高く評価し、満場一致で最優秀賞に選ばれました。まず、タイトルに独創性があること。そして、九十歳を過ぎた審判と若者が「野球」を通してつながっている話に感動したことが、高い評価を得た理由です。テーマが良かったことに加えて、文章も読みやすく、一気に読めました。
 引退する高齢の審判のために、作者たちが一生懸命プレイをしている光景が目に浮かびます。最後のバッターボックスに入る前に審判の目に光るものを見て、「少しでも長くこの場にいさせてあげたいと思った」場面など、読んでいてとても温かい気持ちになった作品です。

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