36℃の言葉。あなたの体温を伝えてほしい。 2017年度 日本福祉大学
第15回 高校生福祉文化賞 エッセイコンテスト入賞作品集
学長メッセージ
審査員の評価と感想
入賞者発表
第1分野 ひと・まち・暮らしのなかで
第2分野 スポーツとわたし
第3分野 日常のなかでつながる世界
第4分野 社会のなかの「どうして?」
学校賞
 
募集テーマ内容・募集詳細はこちら
応募状況
参加校一覧
HOME
入賞者発表

第1分野  人とのふれあい
審査員特別賞 少しの手助けができること
筑波大学附属聴覚特別支援学校高等部 2年
渡会 由貴

 (えっ、どうしたの?なになに待ってよ)帰宅途中の電車の中で、私は焦って周りを見渡した。その日は珍しく座ることができたため夢中で読みかけの本を読んでいた。読み終えてほっとしたのも束の間、車内がガラガラになっていたのに気づき驚いた。ホームを見ると自宅の最寄り駅にあと二駅のところであったが、到着時刻はとっくに過ぎていた。なんと、電車が止まっていたのだ。
 私には聴覚障害がある。普段は補聴器を装用し、切れ切れに聞こえてくる音(言葉ではない)と相手の口形を手掛かりに、話の流れから内容を類推して会話をしている。そんな私が苦手なこと、それは騒がしい場所での会話と、電話や車内放送などの音声情報のみの聞き取りだ。
 どうやら事故が起きたらしい。車内放送を聞いた大部分の人は、振替輸送を利用するために電車を降りていた。ところが私は事故があった事も気づかず、状況が全くつかめなかったため、次の行動が判断できず途方に暮れた。
 (よし!)持っていた携帯電話に文字を入力し、少し離れたところに座っていた女性に画面を見せた。「すみません。わたしは耳が聞こえません。何があったのか教えていただけますか?」その女性は深くうなずくと、すぐに車内放送の内容を携帯電話に打ち込んでくれた。そして、口をはっきり開けてどこまで行くのか尋ねてきてくれた。
 「障害は不便だが不幸ではない」という言葉を聞いたことがあるが、今回のように少しの手助けでぐんと暮らしやすくなる。現在、大学進学に向け情報を収集しているが、支援体制を整えている大学が増えてきていて嬉しく思う。ただ、支援を当たり前のことと思い権利として主張するのは間違っている。我々障害を持った当事者が積極的に現状を伝え、必要な支援、不必要な支援について一緒に考えていく事により、障害者も健常者も共に暮らしやすい社会が築けると信じている。

講評

 文章の構成が素晴らしいです。「えっ、どうしたの?なになに待ってよ」の書き出しを読んで、「何の話だろう?」と引き込まれました。車内がガラガラになっていたのに気づいた後の、心の中の動揺や行動するまでの心の動きがしっかり表現されている点が良いと思います。
 「ただ、支援を当たり前のことと思い権利として主張するのは間違っている」という箇所には賛同できないところがあるという審査員の意見もありましたが、当事者である作者にしか書けないことを素直に表現し、「予期せぬ出来事に遭遇した時、障害者が困ることがある」という大事なテーマを取り上げて、エッセイにまとめた点を評価しました。

UP