36℃の言葉。あなたの体温を伝えてほしい。 2012年度 日本福祉大学 第10回 高校生福祉文化賞 エッセイコンテスト入賞作品集
学長メッセージ
審査員の評価と感想
入賞者発表
第1分野 人とのふれあい
第2分野 あなたにとって家族とは?
第3分野 わたしが暮らすまち
第4分野 社会のなかの「どうして?」
学校賞
 
募集テーマ内容・募集詳細はこちら
応募状況
参加校一覧
HOME
入賞者発表
第3分野 わたしが暮らすまち
優秀賞 故郷の空
三重県立四日市高等学校 2年 伊藤 茜

 私の住む街はかつて公害の街と呼ばれていた。四大公害訴訟の一つ、四日市ぜんそく、これがこの街を象徴するキーワードだった。
 1967年にぜんそく患者九人が企業を提訴し、五年後に勝訴してから、今年で四十年を迎えた。私は生まれてからずっとこの街で暮らしている。コンビナートは今もこの街と共にあり、高い煙突から吐き出される煙は、私にとってあたり前の風景だ。最近ではコンビナートの夜景を楽しむクルージングまである。人々を苦しめた工場群の姿が街の活性化の起爆剤となろうとしている。
 市は公害資料館の建設を計画している。四大公害の街の中で資料館がないのは四日市だけだそうだ。今は、市役所でも博物館でもなく、市の外郭団体がある建物の一角に、資料が展示されているそうだが、それを知っている市民はそう多くないだろう。そのビルは、特別の用事でもない限り、一般市民、ましてや学生が出入りすることはない。公害を知らない世代が増えてきた今、資料館の建設はむしろ遅すぎたように思う。
 小学生の時、自由研究で公害について調べた。過去の出来事だと思っていたのに、今でもまだ後遺症に苦しむひとが少なくないと知り驚いた。公害訴訟は終わっても、ぜんそくそのものはまだ終わっていないのだ。
 環境問題を勉強したい。小学生の頃からの漠然とした思いは、昨年の震災を経て、より強いものになった。三陸の美しい自然を破壊したのは抗い難い大自然の脅威だが、福島の人々から故郷を奪ったのは、自然を甘くみた人間だ。目の前の便利さ、見てくれの発展のために大事なものを手放してしまったら、それを取り戻すのは容易ではない。
 この街にいつまで住むかはわからないが、私の故郷はここだ。時間の経過をもって終結を宣言するのではなく、本当の意味で克服したといえるように、ぜんそくの苦しみを知らない者こそが知るべきことはたくさんある。

講評

 高校生にとって身近な人とのふれあいや家族との関係と違って、第3分野・第4分野は日頃から社会に目を向けていないと書けません。この作品は、自分の生活と社会の広がりをうまく結びつけて、まとまりのあるエッセイに仕上げている点を評価して、優秀賞に選びました。自分が生まれ育った四日市の公害の話だけでなく、今回の東日本大震災とも結びつけて話を広げ、「環境問題を勉強したい」という思いを強くしたという展開が良かったと思います。

UP