日本福祉大学 社会福祉学部

言語と文化(ドイツ、フランス、中国、韓国)

●講義のねらい
 みなさんが大学に入って一番よく使う外国語の一つは 「バイト」 でしょう。 これは英語では bite (噛む) で、 「バイトに行く」 は 「噛みに行く」 となり、 どうも変ですね。 もちろん、 これは英語ではありません。 私がみなさんと同じ年ごろ、 大学生にしか分からない隠語として、 「学生の内職」 という意味で使われていたドイツ語のアルバイト (Arbeit) が、 いつのまにかアルが省略され、 現在では求人広告にも 「バイターさん求む」 と載るようになりました。 このように国際化は経済や新婚旅行に止まらず、 国語にまで浸透しています。
 みなさんもこのような国際化の波に、 好むと好まざるとにかかわらず、 呑みこまれていますし、 この傾向はどんどん強くなるでしょう。 新聞・テレビなどの報道では、 大企業はもちろん中小も、 外国との交流がどんどん増えています。 日本の介護保険はドイツにならって導入されました。 けっして都会とはいえない美浜町でも、 外国人の患者が通院しています。 ライプッチヒで知り合い、 友人となったドイツ人の息子は 2 年前東京の大学で日本学を学び、 数年後は京都にいした。 私が教えた男子学生は卒業後韓国に渡り、 女子学生は政府の海外交流に応募・合格し、 ボン大学に行きました。 みなさんも就職すれば、 大卒として海外関係の仕事が期待され、 大学院に進学すれば、 研究の道具として外国語がもちろん必要となるでしょう。
 ところが最近、 分数の割り算ができない大学生とか、 日本語の書けない大卒の新入社員などが出現し、 学力の低下が大問題になっています。 みなさんの中に、 英語が得意だという人は何人いるでしょうか。 "God save the King!" を 「神が王様を助ける」 と、 ほとんどの人が訳すのではないでしょうか? しかし、 これまで20年弱の過去の惰性で一生を終えるのか、 これから60年という未来の人生に向かって、 この新しく学べる 「言語と文化」 で再出発するのか、 ここに新しいチャンスと選択があります。 まだみなさんは若いのだから、 スタート・ラインが同じ、 新しい 「言語と文化」 にチャレンジしてみてはどうですか。
 私は大学で英語以外の外国語をいくつか勉強させられましたが、 それで逆に英語というものが良く分かり、 日本語も面白くなりました。 ここでそれを詳細に説明することはできませんから、 だれでも知っている 『グリム童話』 の 「白雪姫」 で比喩的にお話ししましょう。
 王妃は鏡に向かっています。 鏡に映るのはもちろん王妃の顔だけです。 その美しさに王妃はうっとりしています。 これは幼稚園と小学校の時代で、 日本語だけの段階です。
 王妃は鏡に尋ねました、 「鏡よ鏡、 この世で一番美しいのは誰?」 すると鏡は答えました、 「ここで一番美しいのは、 王妃様、 あなたです。 でもこの世で一番美しいのは白雪姫」。 これが中・高等学校時代で、 英語に苦しめられている段階です。 国語で満点が取れないことを棚に上げ、 「英語って、 なんて難しいのでしょう」 と、 嫉妬に燃える王妃のような毎日が続きます。 しかし、 王妃様もこの段階で、 遊び心で鏡から一歩後ろに下がって、 白雪姫と一緒に並んで映して見れば、 二人の顔が見較べられ、 それぞれの個性美を発見できたはずです。 これと同様に、 日本語と英語の違いが分かる中学生はどちらもできるようになりますが、 英語を日本語で切り刻んで料理しようとする高校生は、 暗い独善的な王妃の顔で、 I can't bear the noise. を 「私は熊, 騒音ができない」 と訳すわけです。 イギリス人だって同じ人間なのに、 クマさんにされてしまっては、 とてもじゃないが 「耐え」 られませんよね。
 次は大学の段階です。 この鏡は三人並んで映せる大きな鏡です。 日本語と英語、 そしてもう一つの外国語を較べてみれば、 たとえば 「さようなら」 は英語で see you again、 ドイツ語で auf Wiedersehen、 中国語で 「再見」、 フランス語で au revoir です。 日本語以外は文字どおり 「また会う」 ことを表現していますが、 「さようならば」 の短縮形の 「さよなら」、 「さいなら」 そして古語の 「さらば」 も含めて、 最初の 「さ」 は何を意味しているのでしょうか? こうして見ると、 日本語が英語などとは違った個性美を持っていること、 そして 「あいまいな日本」 の言葉の面白さが分かるでしょう。
 さて、 鏡に映す三つ目の言葉を何にするかは、 みなさんの自由ですが、 ここで考えてほしいのは 「将来自分は何になりたいのか」、 「何を勉強したいのか」 ということです。 じっくりそのことと考えあわせ、 ドイツ、 フランス、 中国、 韓国の中から一つ選択してください。 では、 それぞれの大きな鏡の教室で、 新しいスタートを切るみなさんと、 お会いしましょう。

【江坂哲也:言語と文化(ドイツ)担当】




(C) Copyright 2008 Nihon Fukushi University. all rights reserved.
本ホームページからの転載を禁じます。