我々が生まれ育ったアジア大陸が持つ多様性は、 単にその地理的条件だけにとどまらず、 経済、
民族、 文化、 宗教、 社会、 政治、 自然、 衣食住習慣など、 じつにさまざまなカテゴリーにみうけられる。 経済的な面では、 40
以上に及ぶ国や地域の中で先進国は日本とイスラエルの 2 ヵ国のみに限られ、 シンガポール、 韓国、 台湾、 香港の NIEs4 ヵ国と、
マレーシア、 フィリピン、 インドネシア、 タイの ASEAN 4 ヵ国がこれに続く高度成長区域とされる。 その一方で、 アフガニスタン、
モンゴル、 ラオス、 ネパール、 バングラデシュなどの低発展途上国も散在する。 順調に経済成長を続けるインドと中国は世界的巨大市場となり、
旧ソ連から独立した中央アジア諸国や石油資源に恵まれる中近東諸国も、 さまざまな政策や計画のもとに、 経済発展を模索している。
アジア大陸に居住する民族には、 アリーヤ系、 モンゴル系、 ドラヴィダ系、 アラブ系、 ユダヤ系および華僑のほかに多数の小民族があり、
宗教も、 イスラム教、 仏教、 ヒンズー教、 儒教、 神道、 キリスト教など幅広く信仰されている。 異教徒との共存、 宗教紛争など、
宗教に関連する問題は、 人々の日常生活に深く根ざした問題となっている。 政治的には、 民主主義、 共産主義、 独裁主義、
国王制など国によってさまざまである。 経済制度については、 自由主義経済、 資本・市場主義経済、 計画経済など、 これも国によって異なるが、
各国に共通して言えることは、 近年、 民間レベルの非政府組織が経済活動に目覚ましい影響を及ぼしているということである。
こうしたアジアの多様性・多様化については、 一般国民のみならず、 学生ですら、 深く知るところではない。 言いかえれば、
日本人にとってアジア諸国は、 「最も近くに住む、 最も遠い親戚」にしかすぎない。 しかし、 日本とアジア諸国は、 古くから、 政治的、 経済的、
社会的な関係をもち、 互いに依存してきたことを理解するべきである。 本講義の目的は、 まず、 アジア人として、
学生諸君のアイデンティティと知識を深め、 さらに、 アジアの経済、 政治、 社会、 民族、 文化について興味と関心をもつことにある。
時間と機会の制限もあるので、 今年の授業では、 特に、 南アジアのインド、 スリランカ、 バングラデシュ、 ブータン、 パキスタン、
ネパールと東南アジアのインドネシア、 マレーシア、 フィリピン、 シンガポール、 タイに焦点をあてて、 詳しく学習する予定である。
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