みなさんご卒業おめでとうございます。卒業生を物心両面で支えていただいたご父母や保護者のみなさんにも、同様にお祝い申し上げます。
また、年度末のお忙しい時期にもかかわらず、式典にご参列いただきました来賓のみなさまには、高いところから失礼でございますが、心よりお礼を申し上げます。
さて、みなさんが過ごした在学期間には、リーマンショックを契機とする世界的金融危機から世界同時不況が広がりました。その結果、過度な競争社会への反省の時期に至り、政権交代以降の政治や経済などの動きが注目されています。相変わらず雇用不安が広がり、みなさんの就職活動についても相当な苦労があったことを承知しています。しかし、今が「底」だとすれば、これから先は希望が持てるのではないかと思います。また、めったにない苦労を経験したと考えれば、それは今後に経験が生きてくるはずです。「人間万事塞翁が馬」です。今二十二から二十四歳くらいの人が親世代となるころの高齢社会を視野に入れて、少し長いスパンで生き方を模索してほしいと思います。
そこで、私から、はなむけの言葉として、次のお話をしたいと思います。
いまからお話しする彼は、かつて弁護士でした。社会正義にあふれ、謙虚で、誰からも尊敬のまなざしで見られるようにふるまう人でした。ある日、彼はいつものように橋を渡り家路につくところでした。橋の途中で、欄干から身を乗り出して川をながめている女性に気づきました。彼は彼女が気になりましたが、そのまま橋を渡り終えました。そのときです。後方で人が川に落ちる水音が聞こえました。彼は後ろを振り返りませんでした。ほとんど同時に叫び声が響きました。しかし、彼はかけつけようと思いながら足がすくんでいました。それから彼は家路につきました。彼は翌日の新聞を読みませんでした。翌日も、翌々日も、でした。彼はまた、何もなかったように生活していましたが、ある日、その橋とは別の橋を渡った後から、何か様子が変わりました。どこからともなく笑い声が聞こえるのです。笑い声は、諭すような、楽しげで、自然で、ほとんど友好的な笑い声でした。
このお話の原典は、カミュの『転落』という小説です。私が特段の解説をするつもりはありません。みなさんも今後、これに類した心の葛藤に直面するかと思います。そんなときに恐らく、みなさんが培った「福祉力」、「社会力」、「人間力」が試されることになろうかと思います。
日々、自分をよく見つめ、自分の信じるところに従い、精進されんことを願っています。但し、あまりがんばりすぎないように、肩の力をぬいて生きることも大切です。自分の中で折り合いをつけながら生き抜いてください。
そのことに期待しつつ、式辞といたします。改めて、おめでとうございます。