研究報告

生物多様性に富み地域住民・都市住民が求める新たな里山管理モデルの構築
研究代表者:坂上 雅治
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研究背景と目的
  近年, 「里山」 が注目されている. 里山とは, 薪炭林として, 肥料のための 落葉などの採取の場所として, そしてまたシイタケ栽培用の原木などの有用樹種の択採の場として, 人為が加えられることによって生物多様性を保ってきた空間である (室田, 2001).
 主にクヌギやコナラなどで構成されている. しかし, 生活様式の急速な変化により, 里山に人手が 入らなくなるか, あるいは人手が入る場合はそこを住宅団地にするとかゴルフ場にするとかの形で里山 そのものが消滅するという状況が起こった (室田, 2001). つまり時代の変遷につれ里山の価値は低く 扱われるようになり, 放置されたり開発されたりと現在では多くが荒廃している. 近年になってこのような 里山が注目を集めるようになった大きな理由には, 福田によれば, 生態学的には原生林同様に生物多様性が 高いこと, 絶滅の危機にさらされている生物の生息場所となっていることなどが挙げられる. また, 憩いの場あるいはレクレーションとしての機能も注目されつつある. このような背景のもと, 全国各地で ボランティア団体を主体とした里山保全活動が活発化しており, その団体数は 1000 を超えるとされる. しかしこれらの活動は目標とする里山像を設定せずに行われることが多く, 活動後のモニタリングも 行なわれていないのが現状であり, さらに, 地域住民の求める里山像との相違による対立すら発生している (福田). したがって, 里山環境の変化が生物相に及ぼす影響や, 地域住民やボランティアの人々が選好する 里山像について客観的に示すことが重要である. さらに, 生態学の知見と里山に関わるインタレストグループの 各便益の双方を考慮した里山保全モデルならびに里山保全のプロセスモデルを提案し, 対象サイトである 美浜町の里山について, 全国の里山保全の規範となり得るような政策提言を試みる.

  • 室田武 (2001) 物質循環のエコロジー, 晃洋書房

 

住民の里山に対する選好測定 (坂上)
 本研究では, 里山に対する地域住民の意識についての分析を試みる. 具体的には, 地域住民に対して AHP および選択型実験についてのアンケート調査を行い, 回収データについて統計解析を試みる. 得られた推計結果から, 地域住民の里山の保全に対する選好強度を定量化することが可能となる.
 今年度は初年度であり, また予算が当初の予定額に未到達ということもありアンケート調査実施には至らなかったが 調査へ向けた研究基盤を整えた. アンケートにおける採用手法は, AHP と選択型実験を予定している.
 以下では, 本研究で用いる評価手法である表明選好法とくに選択型実験の理論的背景について説明する.
 里山に対する選好を測定する際, 本研究では, 伝統的な経済学理論に基づいたアプローチを試みる. すなわち住民の里山に対する便益, あるいは里山に対する経済価値を経済学の余剰概念を用いて測定する. 経済的な価値は利用価値と非利用価値に分類できる. 利用価値は利用することで認識される価値である. 非利用価値は, たとえば存在価値や遺贈価値など, 利用しなくても認識される価値である. 森林を例にとると, 前者は伐採による材木利用としての価値に相当し, これは市場価格が存在する. 一方後者は, 里山や生態系が存在 すること自体への価値が相当する. 森林の持つ様々な地球環境保全機能も非利用価値である. 非利用価値は市場価格 のように経済行動の結果としては顕れない.
 このような経済価値を評価する手法には顕示選好法と表明選好法がある. 顕示選好法は, 評価対象の代替的あるいは 間接的な市場での取引における市場価格から価値を推定する. 市場価格に基づくため非利用価値まで含めた経済価値は 推定できない. 旅費情報を用いるトラベルコスト法や, 地価や賃金情報を用いるヘドニック法などがある. 一方, 表明選好法では被験者に直接尋ねる方法を採るため, 評価対象が市場を持たない財である場合に効果的である. また直接的に表明させるため, 経済価値として非利用価値まで含めて推定できる. これらは顕示選好法に対する 表明選好法のメリットといえる.
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Copyright(C):2006, The Research Institute of System Sciences, Nihon Fukushi University