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研究課題名 聴覚障害者支援災害コールと
街角コラボレーション機能の構築と実証試験
研究者名(所属および資格) 後藤 順久 (福祉経営学部 教授)
高橋 紘一 (福祉経営学部 教授)
宮川 清一 ((株)NTTドコモ東海 
          モバイルマルチメディア推進本部 課長)

研究成果概要

 2000年に発生した東海豪雨で避難が遅れた被災者の中には、聴覚障害者が多く含まれていた。彼らに対する情報の伝達手段が不足であるために、災害時には早期に避難できる健常者との差が生じ災害弱者の問題が顕在化し、解決が求められている。
 本研究開発の目的は、災害発生直後の異常状態において、災害弱者(語句に聴覚障害者を対象)が自宅から避難所までの第一次非難を安全かつ最適に実行するための、支援ツールの有効性を確認することとそのシステムの平常時利用のあり方を検討することにある。
 今年度の事業では、通常字の聴覚障害者同士や聴覚障害者と健常者のコミュニケーションを支援する「テレビ電話による街頭コラボレーション機能」を実現する擬似環境を構築し、技術的な課題抽出と利用シーン/利用技術の確認のための「手話映像による災害コール機能」を実現するためのシステムを計画する。

1.街頭コラボレーション機能に関する実験
 
技術的な課題抽出と利用シーン・利用技術を確認する必要から、IT機器により、健常者と聴覚障害者の間で手話がどの程度理解できるのか、また筆談によるコミュニケーションとストレス度、スピードがどの程度なのかを比較調査するために、携帯電話のテレビ電話機能でなく、擬似環境としてのパソコン・ウェブカメラを使用し、実験を行なった。
 
利用シーンの一つ目は、聴覚障害者である学生が役場での年金免除の手続きを行なう。二つ目のシーンはコンビニで商品の購入と道案内である。
 
年金免除のシーンは学生にとって年金免除は一年に一度申請しなければいけない重要なものである。この行政サービスを受けるには提出しなければいけない書類も多い。街角コラボレーションシステムを確立することで聴覚障害者、健常者ともに苦痛を感じることなく、コミュニケーションを図ることが可能であるということが予測された。このシーンに関しては双方ともにほぼ同じ時間でコミュニケーションを図ることができる。スピードの観点から言えば、筆談もイメージを介してのコミュニケーションもさほど差がなく、街角コラボレーションシステムの構築の意義を見出すことは困難である。ただし、今回は実験ということであらかじめペンや紙が用意されていたことを考えると実際のシーンを想定した時には筆談はもう少しの時間が掛かることが懸念される。記入項目が多いこのケースの場合、筆談を行い、その後に記入するということは多少ストレスを感じることがあるという意見が聴覚障害者から寄せられた。ただし、イメージを介するコミュニケーションも手話通訳者が記入事項を通訳するのに紙をカメラで映し出したり、コミュニケ−ションを図る人が読み上げたりと健常者にかかる負担も大きい。
 コンビニでのシーンは、レジの数字を視覚で捉えることにより会計をすることができるが、道を尋ねたりすることは困難であり、このシステムを確立することにより、スムーズで無理のないコミュニケーションが図れると考えられる。所要時間が示す通り、このシーンに限っては筆談の方がより早くコミュニケーションを図ることができるといえる。その要因は次のようなことが挙げられる。第一に道案内をする時には健常者、聴覚障害者関係ないしに筆談の方がコミュニケーションを図り易い。筆談でコミュニケーションを図っている場合、地図をその紙に書くことができる。第二に筆談の場合、全ての会話を書き出す必要はなく、必要事項のみ抽出してコミュニケーションを図ることが可能である。
ストレスという観点では、聴覚障害者は会話の内容を省略して、意味を伝えようとすることにストレスを感じている聴覚障害者が多く、この実験の協力者も同様のことを述べていた。人一倍、自分が伝えたい、知りたいということに敏感である聴覚障害者のことを考えればこのイメージを介するシステムはすべての内容を手話という映像を通してコミュニケーションを図ると同時に安心感を与えることも可能である。

筆談
街頭コラボレーション
シーン1
3分41秒
3分45秒
シーン2
3分37秒
4分40秒

2.手話映像による災害コール機能
 実証試験の目的は 、災害発生直後の異常状態において、災害弱者が自宅から避難所までの第一次避難を安全かつ最適に実行するための、支援ツールの構築と有効性を確認することにある。被験者としての対象は、自立避難の可能な災害弱者を非自立の災害弱者(聴覚障害者を中心に聴覚障害者)で構成(のべ50名)し、以下のような実験を予定する。
(実験内容)
1)一斉同報メールによる災害発生と避難開始の通知
 事前に災害弱者台帳に登録した情報に基づいて、災害発生と避難開始のメールを一斉に送信する。また、同時に安否の確認をメールの返信により行なう。
2)自立避難へのモバイル機器による情報支援(有効性の確認と操作性の比較)
 以下のケースについて、機器・システムの有効性の確認と操作性の比較を行なう。
@被験者に携帯させたGPS携帯電話とGPSシステムにより、道路の渋滞状況や被災情報を伝えることにより、安全で効率的な避難経路の指示と管理を行なう(人の位置情報管理)。
A聴覚障害者へのコラボレーション(情報伝達)のツールとして、テレビ電話携帯を使用した手話とメールを利用して、避難支援を行なう。
BモバイルパソコンとPDAに対して、PHSを使い避難情報の伝達を行なう。
3)非自立避難へのモバイル機器による情報支援(有効性の確認)
以下のケースについて、機器・システムの有効性の確認と操作性の確認を行なう。
@被験者と救援者それぞれ携帯させたGPS携帯電話と、GPSシステムにより、道路の渋滞状況や被災情報を伝えることにより、安全で効率的な救援の経路の指示と管理を行なう。(人と車輌の位置情報管理)。
A視覚障害者に代わって、室内の倒壊情報、火災発生状況を確認し、救援者が到着するまでの、安全の確保を行なう。
4)QRコードの読み取りによる到着確認
 災害弱者の避難所への到着の確認を、携帯電話に取り付けた二次元バーコードを利用して、確実かつ迅速に実施し、災害弱者台帳に登録された対象がすべて避難完了したことを確認する。

模式図

研究成果発表
日本福祉大学 情報社会科学論集に投稿予定
関連リンクなど
 

Copyright(C):2006, The Research Institute of System Sciences, Nihon Fukushi University