岩石薄片の偏光顕微鏡による観察とその画像データベース

情報社会科学部教授 水谷伸治郎 (理学博士)


 ふつうの固体物質は光を通さない.厳密にいえば, 可視光線を通さない.表面で反射し,あるいは,内部で散乱・吸収されるからである.しかし,窓ガラスのような透明な物質もある.そのガラスでも,横からみれば緑色に見える.とても透明とは言えない. つまり,光を通すか通さないかはその物質の厚さ,いや,薄さに関係しているのである.例えば,みかげ石の破片を細粒の研磨材を使って磨き,表面を削って薄くしていくと,だんだん透き通ってくる.そして,光が透過するようになる.
 地球や隕石をつくっている物質の研究はそれを構成している鉱物や岩石の研究が基礎になっている.その研究には,顕微鏡を使う.まず,岩石や鉱物を薄くする.薄くなるにしたがって,透き通って見えるようになる.その厚さを0.03 ・から0.025 ・程度にするのがもっとも良い.なぜなら,岩石の主成分である珪酸塩鉱物の多くは,この程度の薄さにすると,その特徴が顕微鏡下で最もよく分かるからである.

図1 :菫青石ホルンフェルス−愛知県春日井市高蔵寺町 (画面の横幅は約1.2 ・)


 研究に適した薄い薄片をつくる技術は,わが国はとびぬけて優れている.手順の多くは機械化されているが,しかし,最後の仕上げは手仕事である.厚ければ,観察には適さない.しかし,薄くし過ぎると,アッという間に試料は削り取られて無くなってしまう.その手加減は難しい.岩石の種類によっても違う.最後の仕上げのすばらしさは技術を通り越して,芸術と言いたいほどである.
 光が固体物質を通過する時には,一般には,屈折率が異なり,振動方向の異なる2 種の光に分かれる.その性質を利用して,顕微鏡の下と上に振動方向の異なる偏光板を取り付け,その間に薄片を置いて,観察する.偏光板の方向を固定しておき,その間に置いた薄片を顕微鏡の鏡筒方向を軸(これをここではZ 軸と言うことにしよう)にして,右や左に回転させる.このZ 軸回転によって薄片中の鉱物の色が変化し,また,明度も変わる.それぞれの鉱物のこのような光学的性質を利用して,鉱物を識別しながら,偏光顕微鏡を使った研究が進められていくのである.
図2 :角閃石斑れい岩−三重県鳥羽市(画面の横幅は約3・)
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