4 . 北京市民の生活における情報化のインパクト
 北京市民の生活における情報化のインパクトとしては, インターネット利用によるインパクトが, 急速な普及速度, 加入世帯数の広がり, 情報通信ネットワークサービスの進展等から大きくなると予想される. そこで, 情報化のインパクト分析については, 特にインターネットの利用に着目して行った.

4 . 1 情報化の進展の生活時間へのインパクト
 北京市民の生活における生活時間の変化状況とその変化に対する情報化の進展の影響について, インターネットの利用世帯と未利用世帯の比較分析を通じて明らかになった主な点は次のとおりである.

  1. 変化傾向がみられた生活時間は, 利用世帯では 20 項目中 11 項目であったのに対して未利用世帯では 3 項目と少なく, 利用世帯の方が生活時間の変化傾向が強い.
  2. 変化内容についても違いがみられた. 上述の 11 項目の中で就寝に関する時間 (時刻, 時間) とテレビを観る時間を除く 8 項目については未利用世帯では 「不変」 の回答が最も多い. またテレビを観る時間については, 利用世帯では 「減少」 傾向にあるのに対して未利用世帯では 「増加」 傾向にある.
  3. 利用世帯では, 上述の 11 項目中 10 項目において, 変化要因として 「情報化の進展」 を挙げた回答が 70%を超えている.
  4. インターネットの利用の影響が特にみられる生活時間の変化内容として, テレビを観る時間の減少, 仕事や学習・研究の時間の増加が挙げられることが比較分析により明らかになった. この変化傾向は日本での生活時間の変化傾向とも異なっている点で特記される.

  生活時間に関する調査より, 北京市区での生活において情報化の進展の影響が出始めていること, そして, インターネットの商業利用開始から間もない状況の中で, その利用世帯と未利用世帯では生活時間の変化に関する傾向に大きな違いがみられ, 利用世帯でその影響が先行的に見られることが明らかになった.

  4 . 2 情報化の生活行動・意識面へのインパクト
 生活行動・意識面への具体的なインパクトについてインターネットの利用世帯に注目して分析した. 主な結果は次のとおりである.

  1. コミュニケーションや人的ネットワークの面でインパクトがみられる. 友人・知人と会って話す機会が減少している一方で友人・知人との情報交換が増加している. 情報化の進展は, コミュニケーションの形態を変容させながらも, 中国社会で特に行動する際には重要になる友人・知人とのコミュニケーションや人的ネットワークを深める効果を及ぼしつつある.

 




  1. これまでの生活行動・意識が変化していく予兆がみられる. 中国社会の開放性, 個人の主体性, 行動の効率性といった面での変化がいくつかみられる (国内・海外の出来事・問題への関心の高まり, 自分の意見等の情報発信機会の増加, 判断に必要な情報収集能力の向上, 時間利用や仕事の効率性の向上等). 中国社会の開放性が促進され, 個人が主体的かつ効率的な行動を志向するようになってきていることがうかがえる. インターネットでの主な利用情報に 「ニュース」 があり, この点が生活行動・意識面でのインパクト発生の一つの要因になっていると推察される.

4 . 3 今後の情報化の進展のインパクト予測
 今後の情報化の進展のインパクト予測も試みた. 中国社会にとって重要と考えられ課題項目や生活面での変化項目を提示し, 情報化の進展の予測される寄与度/影響度を大・中・小の 3 段階で回答を求めた.
 インターネットの利用世帯と未利用世帯とでは, インパクトの将来予測の結果に違いがみられた. 利用世帯の方が全項目についてインパクトの程度を高く予測するとともに, 未利用世帯でも寄与度が大きいと予測している経済発展や仕事/ビジネスの活力創出の面以外にもインパクトを及ぼす可能性を予測している. 利用世帯の予測結果は, 中国社会の情報化は相互に関連する社会の変革という面と生活・個人の変革という 2 つの面を同時並行的に促していく可能性があることを示唆している.
 このように中国社会における情報化の進展は, 中国の社会 (システム) そのものを大きく変えていく可能性がある点が特記されよう. そして, 生活・個人レベルでの情報化の進展がそのような社会の構築を促進さる大きな要因になりうることが予想される.

  5 . おわりに
 本稿では触れていないが, 例えばインターネットの具体的な利用状況の調査結果をみても日本とは異なる傾向がいくつかみられた. 現在の中国の社会的文化的背景とも関わり合いながら北京市民の生活の情報化が進展しつつあることがうかがえる.

  付記:本研究は, 北京清華大学と日本福祉大学情報社会システム研究所との共同研究プロジェクトの一環として実施したものである.

 

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