在宅介護サービスと利用希望者のマッチングシステム構築

− 公的介護保険の導入を前提として −

経済学部助教授 後藤 順久

1. 研究目的

 社会福祉の分野でも情報化が大きな話題となってきている. 福祉の行政事務・管理業務の効率化に貢献してはいるが, 総じて業務の OA 化にとどまり, データを蓄積し, 加工して利用するという 「福祉情報化」 のレベルに至っていない. 近年は蓄積された情報を複数の公的機関で共有化することによって, 福祉窓口の業務の総合化をはじめ, 業務の高度化と効率化を目指すシステムが一部で稼動していたり, 構築途上にあり, 情報化に一定の進展が見られる.
今後は在宅介護を中心としたサービス供給主体の多元化とケアマネジメントの必要性が高まり, 地域全体に広がる公的・民間機関の間で, 情報ネットワーク構築の必要性が生じると予測され, その動きを先取りした先進的な取組みも行われるようになっている(荒川区, 松山市, 兵庫県五色町など). しかし, これらはすべて自治体あるいはサービス供給側にとって都合の良い情報流通が中心であり, 受け手である要介護者のニーズや状況に見合った, 高規格のサービス情報を提供する状況には至っていない. 今後, 要介護者及びその予備軍が, 施設より在宅中心であることを考えるなら, 利用者のサイドからサービス情報を積極的に活用できる情報環境を準備しておくことが重要である. さらに, 自治体を中心とした福祉情報システムに関する実践的な調査への偏りを是正し, 在宅介護支援システムの開発におけるバックボーンとなり得る, 地域福祉の枠組みを踏まえた福祉情報論の体系的な研究の蓄積とそれを実証できるプロトタイプの構築が急務である.


 在宅介護サービスが質・量ともに整備されれば, 要介護者にとって各種サービスを組み合わせて利用するケースと, そうでないケースとでは, その後の生活の質 (QOL) が格段に違ってくる. サービス情報の入手格差がそのまま QOL の格差につながる可能性がある. 本研究では, 従来から曖昧であった在宅介護に関わる 「福祉情報化」 の意味を改めて問い直し, 今後重要となる在宅介護サービス領域への情報システムのあり方について考察を行う. 以下に示すプロトタイプの設計にもこの考えを反映し, 新しいパラダイムを持った情報提供型在宅介護支援システムの提案を行なう. 現在, 供給されている在宅介護サービスの情報は, 主に 「福祉の手引き」 に掲載されるような静的な一般的サービス情報(施設名, 所在地, 電話, 定員等)であり, 当事者や住民の基礎知識として有用であっても, 実際のサービスを受けようとする場面では他の情報が必要となる事が多い. その人にとって利用できるサービス資源 (官・民含む) に関する情報は, 動的な個別サービス情報(ショートステイの空きベッド情報など)で日々変化するものである. こうした個別サービス情報は収集とメンテナンスが極めて難しく, 情報発生源での即時入力が必要となる. 本研究では構築する在宅介護サービスのネットワークとデータベースをどのように設計し, 運用し, メンテナンスするかを考察する. 対象地域を福祉情報化の進展している愛知県碧海地域(5市で構成され, 人口約 44 万人)とし, この地域で展開される官・民の在宅福祉サービスのデータベースとユーザーインターフェースであるホームページ(プロトタイプ)をインターネット上で公開し, システムにメニュー方式で入力された利用者のニーズにマッチしたサービスを提案できるシステムを構築し, その問題点を評価し, 今後の課題を考察することを目的とする.
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