JAM SESSION
STAGE 2

ゲスト (株)AT デザイン 代表 伊藤 晴彦 氏

聞き手 日本福祉大学情報社会科学部 助教授 佐々木 葉

 第 2 回のゲスト伊藤晴彦さんは, 工業デザイナーとしてご活躍のかたわら, 1996 年 1 月, 名古屋市東区橦木町にある空き屋敷を, 期限つきで複数の人々と共同で借り受けて 「橦木館」 を開設. この館を 「単なる町並み保存の見世物にとどめるのではなく, 実際に生活や仕事の場として使うことによって生き返らせ, 人々が忘れつつある伝統のよさを見つけ出せる場所にしよう」 というコンセプトのもと, ここを拠点にユニークな活動を展開しておられます.
 インタビューはその 「橦木館」 内の和室でおこなわれました.

「橦木館」 という場所
<佐々木>
 こんにちは. 今日はお忙しいところ, 時間をとっていただいてどうも有り難うございます. 楽しいお話を期待しています.
<伊藤>
 いやいや, こちらこそ.
<佐々木>
 今日は事務所ではなくて, 橦木館で, ということですが, ここはいつ来てもいいですね. 都心にありながら静かですし, 何といってもこのお屋敷の建物がくつろぐ. まずは, この場所についてのお話をお聞かせくださいますか.
<伊藤>
 以前僕の事務所は栄の真ん中にありました. そして名古屋の 「住環境会議」 という集まりがあって, その打ち合わせを事務所でやっていました. そういうボランティア的な集まりは時間が不規則だから, 夜遅くなったりするんですが, 当時の事務所は貸ビルだからセキュリティが入っていたんですが, それを全部切って, 僕がいる限りはいつでも人が入れるようにしたんです.
<佐々木>
 はい.
<伊藤>
 夜中の 12 時でも何時でもいいように. 会のメンバーの一人だった名古屋工業大学の高橋先生が, 「その昔名古屋には番茶の家というのがあって, そこはいつでも人が来れて番茶が飲めるところで, ここはそういう場所みたいだ.」 という話だったんです. 僕の事務所はそんな感じたっだわけですが, バブルが弾けて栄のその場所を引き払って引っ越したもんですから, 集まる場所がなくなっちゃったんですね. その頃ちょうど橦木町のこの場所にマンションを建てるという申請が出たんです.

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<伊藤>
 それで, その住環境会議のメンバーでもあった名古屋市の職員の人が, 立派なお屋敷を壊してマンションを建ててしまうなんてもったいないと思い, 所有者の方に話をしてみたところ, 少しぐらいなら使ってもいいし, 旨いことお金の処置ができるならば, 残してもらってもいいという話になったのです. そこで僕がすぐに会いに行ったわけ. それが3年前の6月の6日なんですよ. 何で日にちまで覚えてるか言うと, それに行ったおかげで, 娘の誕生日を忘れてしまって怒られたから.
<佐々木>
 あら, まあ
<伊藤>
 ともかく話しに行ったら, 5年間という期間を限って貸しましょう, 使ってもらって結構です, ということで, お金は?と聞いたら, 「200 万ぐらいですかね」 とおっしゃったんですよ. それを僕は月額だと思ったんです. 月に 200 万か, と思いましたが, でもまだ景気はそう悪くなかったですから, 月 40 万払うところを5軒探せばいいんだなあ, なんとかなるかなあって思ったんです. 建物を思い浮かべて, この部屋とあの部屋, それから蔵もあるし, と算段したんですけど, やっぱりちょっと難しかった. それでまた所有者のところへ行くんですが, 「 違うよ, 伊藤さん. 年間で 200 万よ」 って言われて, 一遍に明るくなった. つまりいろんな雑費を入れても, 月に 20 万でいいわけですね. これは乗りだと. それで事務所にしようと思うんですけど5年間って決められているからさすがにここへ事務所は持ってこれない.

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