シニアネットワークへの期待

− 情報化と高齢化とをつなぐもの −

経済学部教授 森本 正昭

情報化と高齢化

 いま情報化と高齢化が急速に進展している. しかも両者は相反する方向に進みつつあると考えられている. 情報化の中身は具体的にはパソコンや通信技術の進展であり, それらに対する高齢者層への対応はまことに希薄なむしろ高齢者を除外した世界を構成しようとしている感さえある.  光と影という言い方があり, 光が強いほど影の側面も色濃いのであるが, 情報化というときには光の側面が強調されすぎている. その影の側面はなぜか隠されているため, 突然コンピュータ事故や犯罪により社会的システムが維持しえなくなって人は混迷の中に投げ出されることにもなる. 一方高齢化というときには影の側面が強調されているように思える. 高齢者が社会のお荷物のような言われかたがなされている. しかし "大半は健康な高齢者であり, 生活に積極的な価値や意味を求めようとしている"1). 情報化との関連で見るとき, 高齢者がパソコンが使えないとなぜ決め付けてしまうのだろうか. コミュニケーションの手段として便利なメディアが開発されたなら, その恩恵に浴したいと思うのは高齢者も同じなのである. 私の研究テーマはこの両者に接点を求め見事な社会的参加の機会を見出す可能性を探ることにある.

高齢者にパソコンは使えないのか

私が勤務していた某企業では, 社員の情報武装化を促進するためのパソコン講習会を数多く開催していた. 当初は若手社員の参加を期待していたはずである. ところが実際に参加する受講者の多くは定年間近かの高年齢者が多く, なぜ会社をもうじき辞める人が情報教育を受けようとするのだろうということが議論になったことがある. 要は何か定年後の自分に役立つはずだという認識があるということであるらしい.

表1キーボードのキーの数の見え方
(調査資料:森本正昭)

平均以外の数字は人数、
平均はキーの数の平均値
キーの数企業内中高年学習者情報システム部門部長クラス大学生2,3年
50-59
1
60-69
2
70-79
41
80-89166
90-99126
100-1095
9
110-119

2
120-1292

130-1

平均1047997

 次に表1は極めて興味の持てる資料である. "あなたはパソコンのキーボードのキーの数はいくつあると思いますか. 考えないで感じで即答してください." この一風変わった質問に対する回答がこの表である. 企業の中高年学習者の回答の分布は列1の通りである. 列2はIBMユーザ研究会の管理者グループのメンバーで, 情報システム部門の部長クラスの人たちである. 列3は日本福祉大学の若い学生諸君でこれから情報処理を学ぼうとしている時期の調査データである. 人は欲求や心的状態によってものの見えかたが異なるということをよく説明している. 若い学生は客観的なものの見方ができる. キーの数の実体は機種によって異なるが 98〜109 位なのである. それに対してコンピュータに強いはずの管理者層の人達は自分でパソコンを操作することもないのか, 状況をなめきっている (下品な表現をお許し願いたい). そのためキーの数が少なく見えるらしい. それに対して高年齢の学習者では正解の範囲内であるがキーの数が多めに認識されている. それはパソコン学習に期待を持っているが不安がいっぱいという心的状況にあると解釈してよいだろう.

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