私立 日本福祉大学

取組名称   学生とともにすすめる障害学生支援

―障害学生とともに全学生が成長しあう教育システム―

申請単位   大学全体

申請担当者  副学長 加藤 幸雄

キーワード   1.ともに学びあい、成長しあう 2.地域のバリアフリー化  
          3.教育のユニバーサルデザイン化 4.実践的モデル 5.地域との連携・社会への還元

1 大学の概要

 
日本福祉大学は、今年創立50周年を迎えた。社会福祉の単科大学としてスタートし、現在は、社会福祉学部、経済学部、福祉経営学部、情報社会科学部、通信教育部、大学院社会福祉学研究科、情報・経営開発研究科、国際社会開発研究科に約9,000名が学んでいる。愛知県の美浜町、半田市、名古屋市に三キャンパスを有し、人間福祉を軸とした専門職者養成、生涯学習の推進、地域社会との共同・連携事業を進めている。
 本学には現在、全学合計で153名の障害学生が在籍している(表1)。近年、多くの大学で障害学生の受入が進んできているが、この在籍学生数は全国の大学でも有数の受入数であり、また障害学生の重度化が年々進行していることも特徴である。 本学では、障害者のための教育カリキュラムの設置や、日本の大学で初めてOHCノートテイクを開発したことを始めとする学習支援スキルの蓄積、入学から卒業までの総合的なサポートシステムがある。通信教育部の開設は、外出困難な障害学生が自宅からインターネットを使って学習できる条件を作った。

 
 創立時、すでに重度のポリオによる肢体不自由の学生が入学、昭和45年には全盲学生、昭和51年には日本で初めて車椅子学生の入学を受け入れた。大学で学ぶ意欲があり、本学で可能な受入条件を了解できれば、入学してから共に様々な問題を解決していこうという姿勢を、創立時から持っていたのである。とはいえ、昭和45年以前は、教職員・学生の自主的な努力によるインフォーマルサポートが中心であった。昭和45年、教授会で全盲者の特別入学試験体制(点字受験・時間延長)を決定し、併せて障害者体育・期末試験配慮・点字図書の配置を開始した。これ以後、組織的な支援事業が開始され、毎年諸施策が実施されることになる。昭和55年以降は、障害学生実態調査を行い、客観的なデータを基礎に、施設・設備等のハード面だけでなく、サポート体制等ソフト面の整備も進めてきた。昭和58年の現美浜キャンパスへの総合移転に際しては、この実態調査と障害学生との意見交換を実施し、当時としては最大限の配慮を行ったバリアフリーキャンパスを実現した(図1)。
 平成4年には、学生部の下に「障害学生の勉学・生活条件改善委員会」を設け、それまでのインフォーマルサポートを公的な支援事業に再組織化した。平成10年には、大学の付属機関として「障害学生支援センター」を開設し、健常学生も含めた総合的な教育・学習支援機能をも備えた支援システムを構築し、現在に至っている。

2 本取組の内容

 本学における障害学生支援の特徴は、学習弱者を生まないシステム作りという考え方を基本にしている。その上で、@障害学生を単なる「サービスの受け手」ではなく、「ともに考え育ちあう仲間」として位置づけていること、A入学から卒業まで一貫した支援体制を目指し、進学相談・受験支援から学習・生活条件整備、キャリア形成支援に至るまでの支援を行っていること、である。特別な設備や体制を整えてから入学者を迎えるのではなく、入学当初に条件が整わなくても、現行の条件で本人も努力して学習する意欲があり、入学試験に合格する学力があれば、まず入学を認め、入学後に本人と共同して問題を解決していく姿勢をとっている。創立以来50年間一貫して取りつづけてきたこの姿勢が、本学の事業の根底にある。この支援事業は、多くのボランティア学生により支えられている。本学では、ボランティアに関わる学生たちがこの事業を通じて、障害学生と共に育ちあっていることも大きな特徴である。障害学生自身が自らの能力を伸ばして主体的に成長するとともに、この事業に携わる学生や教職員も多様な人間の存在や価値観に気づき、それを認め、障害学生と接する中で広い視野と豊かな人間性を身につけて成長していく姿がある。障害学生に対する学習支援事業は、教育のユニバーサルデザイン化を生み出し、一般学生も含めた教育の改善につながっている。障害学生への支援が、学生のキャリア形成や授業の改善に結びついていることも特徴の一つである(図2)。

 

  入学から卒業・就職まで一貫した支援体制をとることが、本学の目標である。その支援は、入学前の進路相談から始まる。本人の申し出に基づき、障害の状態の確認、学生生活上の要望事項・入試での配慮事項のヒアリング、学内のサポート体制や条件等の説明が行われる。入学試験では、点字受験、問題・解答用紙の拡大、ワープロやテープレコーダーを利用した解答の許可、試験時間の延長、座席の配慮・特別受験室の設置、照明器具・文鎮等の持ち込み許可、筆談による指示事項伝達等、全ての障害に対応した配慮が行われる。遠隔地からの入学者には下宿生活についての相談と下宿改装についての援助が行われる。入学時には障害学生を対象にしたオリエンテーションと健康診断が行われ、本学における支援システムの説明が行われる。在学中に大学が行う支援サービスには、定期試験・レポート提出の配慮、教材の一部の点訳、非常時の安全対策支援、個別就職相談、点字図書データの提供、図書の代行検索等がある。障害学生支援センターの誕生後は、学習支援と学内での生活支援のため、ノートテイク、パソコンテイク、OHCテイク、講義とオリエンテーションの手話通訳、ビデオ教材の字幕付け、ビデオ教材のテープ起し、点訳・墨訳、対面朗読、リーディングサービス、生活介助、ガイドヘルプのボランティアを派遣するシステムを確立した。この他にも、学生・教職員によるインフォーマルなサポートが常時行われ、学内では日常的な援助が当たり前の姿になっている(図3)。


  障害学生の学習活動を援助するため、障害によって生じる特別な学習上の出費の一部を援助する、障害学生奨学金制度も設けられている。こうした支援事業には、多くの学生がボランティアとして参加している。障害学生支援センターの運営には、七つの学生サークル・団体が関わり、155名の学生が参加している。ボランティア登録をしている学生は、平成15年3月時点で313名に上る。この活動には、全学部から学生が参加していることも本学の大きな特徴である。過去には、一人の重度障害学生に300名のボランティアが組織(図4)されたこともあった。

  本学では、ボランティア保険料の大学負担、ボランティア奨励金の支給でこうした活動を奨励している。また、点字図書、雑誌のテープ版、録音資料等や拡大読書機、立体コピー機、拡大コピー機、拡大レンズ、移動式ループアンテナ等の機器の整備もすすめている。施設・設備上の配慮では、現在の美浜キャンパスへの移転に際して、スロープ、エレベーター、ループアンテナ、身障者トイレ、聴覚障害者用緊急告知信号ランプ、車椅子用座席等を設置し、障害学生の要望・意見を取り入れた、当時全国的にも最も配慮されたキャンパス設計を行った。移転後も毎年障害学生の生活スタイルの変化や意見を取り入れ、障害学生が主体的にキャンパスの環境改善に取組めるシステムの下で、身障者用駐車場の設置、エレベーター内音声案内を始め70項目以上に及ぶ施設・設備の改善が行われている。こうした配慮は、半田キャンパス、名古屋キャンパス、美浜キャンパスの新しい校舎建設に際しても同様に行われている。
 ボランティア学生やインフォーマルなサポートを自発的に生み出す要因は、教育システムや学生の自主活動にある。入学時には全新入生対象のオリエンテーションで、多数の障害学生が在籍していることやその特徴と支援の必要性について説明が行われる。正課講義では、「ボランティア論」を各学部で開講し、1年生の70%が受講している。その中で障害学生と障害学生支援センターの教員が講師を務め、障害者とボランティア活動についての理解と活動参加の促進を図っている。聴覚障害者のための「英語」クラス、手話を学ぶ「障害者コミュニケーション」、「障害者スポーツ」等の科目も開講され、社会福祉学部では障害者スポーツ指導員の資格が取得できる。また、養護学校教諭一種免許養成課程も置いてい る。卒業研究でも障害者問題に取組む学生は多い。社会福祉学部では100名以上、経済学部・情報社会科学部でも計20名以上が、障害者問題を研究テーマにしており、障害学生サポートが学生の研究分野の関心にも影響を与えていることが分かる。正課外では、CDP(キャリア開発)センターで「ホームヘルパー2級養成講座」、生涯学習センターで「手話講座」等を開講し、障害者支援をキャリア形成の一環として位置づけている。障害者関係の資格取得に取組む学生は、昨年度も延べ約500名に上る。障害学生支援センターでは、年間5〜6回のボランティア講座(表2)を開催し、昨年度は230名以上の学生が参加した。障害学生への支援や介助技術について講習を行い、ボランティアスタッフ養成と力量向上を図っている。教職員、学生、サポート学生が参加して毎月開催される障害学生との懇談会では、障害学生からの要望の聞き取りや意見交換が行われ、ともに問題を考える場となっている。学生の自主活動でも、ボランティアサークルが学内外で活発に活動している。

 こうした取組は、本学全体が障害者支援者育成の場となっていることを示している。障害学生の支援を通じて障害学生と健常学生がともに成長しあう教育的実践の場となっている。このことによって、ボランティアに多数の学生が参加する条件を生み出している。また、すぐに抜本的解決ができない問題にも、教職員・学生のインフォーマルなサポートが期待できる。障害学生に対する学習支援事業は、教育のユニバーサルデザイン化も生み出している(図5)。

  障害学生のために開講された「障害者スポーツ」は健常学生にも開放され、障害者スポーツ指導員資格を取得する学生を多数生み出している。障害学生用に作成された字幕付ビデオや詳細な講義レジュメは、健常学生の授業理解にも効果を上げている。健常学生からは、「相手の立場でものを考える姿勢が身についた」、「援助のつもりが援助されていることに気がついた」といった声が寄せられている。障害学生支援を通じて、ともに学びあい、成長しあう関係が成立しているのである。障害学生自身も自らの能力を生かしてボランティア活動に参加しており、単にサービスの受け手ではなく、自ら主体的に問題の解決にあたり、ともに支えあう人間として成長していく姿が見られる(図6)。

3.本取組への組織的対応

 平成10年、大学の付置機関として障害学生支援センターを開設したことにより、健常学生も含めた総合的な教育・学習機能を備えた支援システムが確立された。同センターの中心任務は、障害学生支援のコーディネートである。障害学生から意見や要望を聞く窓口となり、直面する困難やニーズを的確に把握して、学内の必要な機関に問題と課題を提起し、障害学生とともにその問題を解決する調整役である。その他、@ボランティアの確保と派遣・ボランティア養成、A教職員・学生に対する障害学生の理解と配慮の促進事業、B学内施設・設備の点検と改善促進、C障害学生支援のための調査・研究・情報の発信と収集、D地域・他大学・障害者団体との連携と交流等の事業を担っている。センター運営には、大学評議会で選任されたセンター長と各学部選出の運営委員の教員、担当事務局の他、前述のように多くの学生団体が関わっている。学生団体は、自ら改善できることは自ら取組み、公的に支援が必要な課題については大学に要望し、組織的な改善を図るという姿勢をとっており、大学と協働して障害学生支援を発展させてゆくシステムの一つとなっている。
  障害学生支援事業は、まず、同センターで障害学生やサポート学生のヒアリングが行われる。同センターが関係機関・部局と協議の上、年次報告を大学評議会に行い、レポートにまとめ、理事会との合議の上で毎年度事業計画にまとめられる。この事業計画が、学長・副学長とそれを補佐する機関である大学運営会議の提案により、大学評議会で決定され事業が実施される。同センターは、この事業の企画・立案・総合調整・研究・啓蒙・人材養成・対外的窓口機関となっている(図7)。

4 取組の実績

 本学の取組は、多額の経費投入による施設設備の大幅な改善や専門スタッフの採用を前提とした事業ではない。現行の条件の下で障害学生も受け入れ、ともに問題解決に向けて50年間に渡り努力をしてきたものである。関係者の創意工夫により、すぐにでも実現可能な「実践的モデル」の積み重ねである。平成15年度の事業予算は、人件費を除いて2,400万円程度である。その予算は、障害学生支援センターを始め、各部署に振り分けられている。業務を同センターに押し付けるのではなく、日常の業務の中に障害学生支援が普通に組み込まれているのである。同センターには、これまでも多くの視察や調査の申し込みがある。この事業が「実践的モデル」を多数持つことがその理由であろう。
  近年は、企業や地域との連携事業の申し込みも増えている。企業との共同事業には、福祉車両の開発、障害者トイレの開発、タブレット型パソコン活用の共同研究等がある。いずれも障害学生が積極的に自らの体験や意見を生かして、主体的に関わることのできる絶好の学習機会である。地域との間では、共同によるボランティア養成に関る講座事業の実施、地域バリアフリー環境改善への協力等がある。今後は、こうした機会をさらに拡大し、企業との連携による障害者支援機器の開発、地域と連携したサポート人材の養成と地域のバリアフリー化の促進を構想している。これを大学の正課教育・研究活動・学生の自主活動の一環に取り入れ、障害学生と健常学生が、主体的に成長しあい、学びあう場が拡大することを願っている(図8,9)

【採択理由】

 この取組は、日本福祉大学の教育目標である「万人の福祉のために、真実と慈愛と献身を」を実現するために、すでに33年にわたって組織的に実施されてきております。

 この取組は、関係者の永年の努力により、健常学生も含めた、総合的な教育、学習機能をも備えたシステムに発展させてきております。特に障害学生に対する入学から卒業までの一貫した支援とともに、大学全体が障害者支援者養成の場となり、学内障害者の支援を通じて障害学生と健常学生がともに成長しあう教育実践の場となっており、またその活動成果を積極的に社会に還元している点についても優れた面があり、全体として優れた特色が認められ、他の大学に対して十分参考になる事例として認められました。

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