プログラムの概要

 この取組は、日本列島の北部・中部・南部に位置する北星学園大学・日本福祉大学・熊本学園大学が、e-learningコンソーシアムを形成し、卓越したコンテンツとそれを支えるシステムの相互開発・活用を基盤とし、@社会福祉教育の質的向上・普及、A相互交流による学生の成長教職員の資質向上(FD・SD)、B「地域知」の形成と還元、の三事業で構成する。まず、「社会福祉士法」改正に対応したe-learningによる社会福祉人材養成カリキュラム等を共同開発し、社会福祉教育の質の向上を図る。現職者リカレント教育や福祉啓蒙教育も進める。次に、三大学の特性や地域性を活かした国内留学制度、交流プログラムによる学生の人間的成長と、三大学間の相互交流とインストラクショナルデザイン手法による教職員の資質向上を図る。さらに、地域の価値や魅力、地域づくりの先進事例などを地域に発信し、地域の人々と学びあうことでともに地域の活性化を担う。

プログラム内容

1.連携取組について

(1)連携取組の趣旨・目的

 この取組は、日本列島の北・中・南部に位置する私立大学である北星学園大学(北海道)・日本福祉大学(東海)・熊本学園大学(九州)が、e-learningコンソーシアムを形成し、卓越したコンテンツとそれを支えるシステムの相互開発・活用を基盤とし、@社会福祉教育の質的向上・普及、A相互交流による学生の成長と教職員の資質向上、B「地域知」の形成と還元、の三つの事業に取り組むものである。(【図1】参照)
 @社会福祉士の養成教育は今、「社会福祉士及び介護福祉士養成課程における教育内容の見直し」(平成20年3月、厚生労働省)とそれに対応した「社会福祉士法の一部改正」(平成21年度施行、以下「新法」と表記)により、質的保証を軸とした転換期を迎えている。様々な社会資源を統合した総合的なサービスの実施や、地域の福祉課題の把握、地域福祉増進の働きかけなど、より高度な専門性の付与のための学習内容の広範囲化・多様化が必要とされ、社会福祉士指定科目と学習・実習時間の大幅な増加が定められた(【資料1‐@AB】参照)。この社会的要請に対応し、社会福祉学部を有する三大学が英知をあつめ、e-learningによる新しい社会福祉人材養成カリキュラム等を共同開発し、大学の社会福祉教育の向上を図る。さらに、今回の法改正の趣旨を徹底し、社会福祉全体の質的向上を果たすためには、現職の福祉人材の専門性向上への取組、福祉人材不足などの社会的問題の解決などが必要である。社会福祉教育に取り組む大学として、現職者のリカレント教育や未来の福祉人材確保に繋がる小・中・高校生への啓蒙教育など、地域を舞台とした福祉教育も同時に進めていく。 

 A学生の興味関心が細分化・多様化しているとともに、一方では、学生のコミュニケーション不足や社会との関係性が希薄な状況がうかがえる。三大学の特色・個性(学部学科構成や地域性)を活かし、自大学にない専門領域を学べる国内留学制度により、学生の多様化した学習ニーズに応える。また、全く異なった背景を持つ学生同士が交流するプログラムを通じて、人間的成長を促す。
 一方、大学教職員の資質についても、平成20年の「大学設置基準の一部改正」によるFDへの取組の義務化、「学士課程の構築に向けて」(中央教育審議会)での職員の職能開発(SD:スタッフディベロップメント)への言及など、その向上が社会的に求められており、各大学で工夫された取組が進められている。それらを三大学間でFD・SDのネットワークを形成し、相互に学びあい、評価しあうことで、その実効性を最大限に高めることをねらう。また、同時に、インストラクショナルデザイン(【資料8】)手法の教育・職員業務への普及を図る。
 B地域の再生・地方の活性化が叫ばれる中で、三大学が連携して地域の大学として貢献しうる事業に取り組む。地域の活性化のためには、まず、その地域の人々が、自分たちの住む地域の価値と魅力を再認識し、意欲的に自ら地域づくりを進めていくことが大切である。大学は、教育・研究の府として、その地域の歴史・文化・環境・産業の価値や魅力、地域づくりの先進事例などをわかりやすくまとめて地域に発信すると同時に、その活性化を担う地域の人々と、協力・協同し、絶えず学びあうことが求められる。これらを「地域知」と定義し、各地域の生涯学習などで利用可能なコンテンツとして提供する。また、このコンテンツは、Aの交流に取り組む学生・教職員が互いの地域性を理解するためにも活用する。なお、@の社会福祉教育にも関連し、特に各地域の福祉の特徴・特色について相互理解を図るコンテンツも別途開発する。


(2)連携取組の内容、実施体制等

(2)−1 連携取組の内容

 この取組は、日本福祉大学を代表校とし、北星学園大学、熊本学園大学を連携校とする。この三大学がe-learningコンソーシアムを形成し、互いの連携のもとに以下の@ABの三事業を推進する。

@社会福祉教育の質的向上と普及を図る事業

 社会福祉教育の質的向上と一層の普及を図るためにe-learningを中心とした社会福祉人材養成カリキュラムを開発し、その活用・展開を進める。

@)e-learningによる「新法」対応の社会福祉教育コンテンツの開発と大学教育での活用

 社会福祉士「新法」に対応した社会福祉士指定科目(全19科目【資料1-B】参照)のe-learning教育コンテンツを開発する。各科目の学習内容や授業時間数など授業内容の基本部分は、厚生労働省の指定により全国共通のため、コンテンツの大学間共同開発・相互利用が可能である。大学間の連携・分担によるコンテンツ開発は、各大学がそれにかける負担(財政・労力)を軽減し、「新法」対応の課題解決を容易にする。また、三大学の社会福祉教育の特色を生かしたオムニバス形式のコンテンツの開発などにより、教育内容がさらに豊かになる。このe-learning社会福祉教育コンテンツにより、専門的資質の向上という社会的要請に対応し、大学の社会福祉教育の高度化を図る。

  e-learningは、時間割上の制約のない確実な履修を保証できる。その学習も時間・場所を問わず、反復学習により内容の理解を深めることができる。その特性を活かし、学習の質を向上させる。また、コンテンツの活用形態は、e-learningのみの開講、対面講義との組合せ開講、補習や資格試験受験対策教材としての利用など、様々に想定される。各大学がそれぞれの事情に応じて判断し、科目ごとに活用形態を決める。多様な活用が可能となり、社会福祉教育の実施形態の選択肢が広がる。

A)地域を舞台とした福祉教育の普及
  1. (a)福祉リカレント教育
     e-learning社会福祉人材養成カリキュラムを基盤に、地域の福祉学習ニーズにも積極的に対応する。特に、「新法」による社会福祉士の質的高度化という社会的要請は、社会福祉現場の現職者にとって、より切実な課題といえる。e-learningの特性を活かし、福祉リカレント教育として、社会福祉施設等で働く人々や各大学の卒業生を対象に、より高い専門性の獲得を目指す研修や卒業後の学び直しの機会を提供する。特に地域の福祉団体・施設等の研修での活用を働きかける。(【資料2】参照)なお、日本福祉大学通信教育課程の社会人学生による全国各地の自主学習活動(地域学習会)の経験を活かし、連携大学を拠点とした、地域の人的ネットワークの強化と新たな学習機会の提供を行う。
  2. (b)福祉啓蒙教育
      独自コンテンツの開発により、地域における福祉のイメージ向上と次世代を担う人材養成を目的とした福祉啓蒙教育に取り組む。これは、ワーキングプアなどマスコミ等で喧伝されたマイナスメージを払拭し、長期的に福祉従事者の確保にも寄与するものである。
    福祉のひろがりや仕事の専門性などをわかりやすく紹介したコンテンツを、上記のe-learningや各大学の科目を活用して開発する。日本福祉大学の福祉導入教育であるe-learning科目「福祉社会入門」や高校生向け冊子「はじめてのふくし」(【資料3】参照)では、現代社会における福祉の多様性や、産業・暮らしとの関わりなどを紹介している。これらを高校生向け教材に改訂し、まず、三大学の付属高等学校に提供する。さらに、地域住民、小中学校、他の高校に向けた教材も作成し、webや生涯学習での提供により、福祉啓蒙教育を推進する。
A連携大学相互の交流により学生の成長と教職員の資質向上を図る事業

連携三大学の交流を通して、学生の成長と教職員の資質向上を図る連携事業を以下の通り推進する。

@)学生の成長を図る三大学交流プログラム

 e-learningに加え、学生交流による学びあいを通した教育プログラムを開発し、学生の興味・関心の多様化に応え、その視野を広げ、社会性などの向上を目指す。これは、国内留学制度、短期交流プログラム、多様な交流諸事業で構成し、各大学の特色やその地域の社会・経済・文化的背景を素材としたプログラムの開発・提供に取り組む。また、これを支える制度的枠組みとして、滞在費用等の援助制度(送出側)や宿泊施設確保等の支援制度(受入側)を整備する。宿泊施設は、各大学が確保する学内宿舎、寮、指定下宿等を活用する(【資料4】参照)。情報環境として、共通ラーニングマネジメントシステム(以下、LMS)などを設置し、事前事後の取組や日常的な意見交換、国内留学中の自大学の資格対応e-learning科目履修などを可能とする。国内留学に対応して、単位互換制度を整備し、留学先での履修単位を自大学の単位に算入できるようにする。

  1. (a)国内留学制度
     2年次後期を主として、三大学間の国内留学制度を設置する。連携三大学の特色ある科目や教育プログラムの受講を可能とし、より広い専門性の修得など、学生の多様な学習ニーズに応える。具体的には、自己の専門性をさらに広げる学問領域の学習や、同じ専門領域でも自大学にない魅力的な教育を受けることが想定される。例えば、福祉経営を学ぶ日本福祉大学の学生が、将来への必要性から、熊本学園大学でホスピタリティマネジメントも学ぶといったものである。
    この制度の活発な推進のために、単位互換制度の確立はもとより、国内留学の学習モデル(異なる専門領域の組み合わせによる学習モデルや参加できる他大学教育プログラム一覧など)を学生に示し、何が学べるか明確に提示する。また、この制度を発展させたものとして、将来の共同学位授与についても検討を開始する。なお、熊本学園大学と沖縄国際大学、北星学園大学と広島修道大学との間で国内留学が実施されており、その経験を有効に活用することができる。
  2. (b)短期交流学習プログラム(【資料6】参照
     夏・春休みを中心とした短期間(3日〜2週間程度)の交流学習プログラムを実施し、多様な背景をもった学生の直接的交流自体の教育効果に加え、コミュニケーションを基本とした協働体験学習を通して、学生の人間的成長を図る。これは、各大学の学問的特色や地域的特徴をテーマにしたプログラムと、三大学共同で青年期の共通テーマなどに取り組むプログラムに分けられる。前者は、フィールドワークなどの体験型が中心となる。例えば、日本福祉大学は、全国的に注目されている地域福祉NPO先進地という知多半島の特性を活かし、その先進性を学ぶNPOフィールドスタディプログラムを開発・提供する。この参加者は、同大学のe-learning科目「知多学」(平成21年度開講予定)を共通LMS上で事前受講し、その背景を学習しておく。このように、各大学の交流学習プログラムとともに、e-learningによる事前・事後学習も実施する。次に、後者の三大学共同プログラムとして、20歳前後の学生に共通する人生やキャリアの設計といった課題、各自の学問についての省察など、多様なテーマを討議するワークショップなどを企画する。その実施形態・参加人数はプログラムによる。また、各大学の海外研修先をシェアすることなどを検討し、学習機会をさらに豊富にすることも追求する。
  3. (c)多様な交流諸事業(【資料6】参照
     合同の英語プレゼンテーション大会・ゼミ研究成果報告会・就職情報交換会やスポーツ交流など、多様な交流事業を計画する。また、直接的な交流以外にも、ソーシャルネットワーキングサービス(以下、SNS)などによる日常的交流も含め、連携大学間で様々な形態を追求することとする。
A)教職員の資質向上のための事業

 大学連携により以下の三事業に取り組み、大学教育・職員業務の質的向上を図る。取組の多様な成果を取りまとめ、その知見を広く発信する。特に、複数大学の連携により得られたノウハウであることに価値があり、他大学が大学間連携を検討するにあたり、大いに参考となる情報を提供することができる。

  1. (a)ネットワーク形成による日常的なFD・SDの活性化
    共通LMS・SNSを開発し、三大学のネットワークを形成して、日常的なFD・SDを推進する。事業推進による日常的な意見交換、他大学の興味深い事例等の理解により、自大学の授業や職員業務の改善につなげる。特にSNS上では、各連携事業のコミュニティ、広く大学教育を考えるコミュニティ、地域における大学の役割を討議するコミュニティなどを設置し、多様なテーマでの意見交換を進める。
  2. (b)インストラクショナルデザインによる教育・業務改善(詳しい説明は【資料8】を参照
    インストラクショナルデザインは、分析・設計・開発・実施・評価を繰り返し、学生の学ぶ意欲を引き出すような効果的で魅力的な教育を設計する。e-learningコンテンツの制作を始め、幅広く活用可能な手法である。この手法に基づく事業推進自体が、教育や職員業務の高度化につながる要素をもつ。三大学でその研修やインストラクショナルデザイナー養成を意識して取り組み、教育内容の充実・学習目標の明確化、業務の高度化等の教育改革・改善を図る。
  3. (c)共同のFD・SDプログラムの実施
    三大学の教職員が直接会してのFD・SDプログラムを実施する。具体的には、各大学のFD・SDに関する取組の情報交換と相互評価、授業改善や職員業務改善の事例報告のための交流・研修会等を開催し、三大学教職員のコミュニケーションを図る。研修の要点は、e-learningコンテンツ化して共通LMS上で配信し、各大学の教職員の自己啓発を促進する。
B「地域知」の形成とその還元による地域の再生・活性化を図る事業(【資料7】参照
@)「地域知」コンテンツの作成と活用

  三大学が立地する地域を素材としたe-learningコンテンツを開発し、webや生涯学習で地域に向けて提供する。連携大学間の相互受講も可能とし、学生交流プログラムと組み合わせて、学生の教育に活用する。
このコンテンツでは、各地域の歴史、文化、環境、産業などの魅力や価値を、研究や社会連携等から得られた知見を通して掘り起こし、地域住民や学生に分かりやすく伝える。また、自ら地域づくりを進めてきた住民や行政等の活動をとりあげ、思いや苦労も交えながら、その先進性や価値をあらためて提示する。地域を見直すことで得られる新たな知見を「地域知」と定義し、そのコンテンツ化を図るものである。地域住民は、そのコンテンツ視聴を通して、自分たちが住む地域の価値、地域づくりの取組の意義などを再認識し、その地域への共感を深め、地域活性化のために自らの役割を考えるきっかけをつかむ。これは、それぞれの地域を市民レベルから活性化させる取組であり、地域の研究教育拠点としての大学ならではの役割といえる。また、学生にとっては、自分が学ぶ地域の理解を深め、その大学への帰属意識を高めると同時に、他大学の地域性を理解する教材となる。
例えば、日本福祉大学のe-learning科目「知多学」(平成21年度開講予定)は、同大学の知多半島総合研究所の研究成果をもとに、知多半島の歴史・環境の面白さなどのトピックの学習に加え、住民による地域づくり事例を通して、地域をどう形成していくべきか学ぶ科目である。連携校においても、北星学園大学の「北海道学」、熊本学園大学の「熊本学」など、各大学の地域的特色などを踏まえた教材開発が考えられる。

A)地域の福祉課題等に関するコンテンツ作成

  地域の福祉課題等に関して、三大学周辺地域の福祉や施設などの特徴・特色を紹介するe-learningコンテンツを開発し、大学間共有と地域への発信を行う。これは、社会福祉教育の質的高度化にも対応するものである。また他にも、地域の福祉課題対応として、海外からの人材供給が検討される福祉の職場向けの、実践的なe-learning福祉語学教材の開発などが考えられる。

(2)−2 実施体制等

@コンテンツ、システム、人材などの開発とその体制

 この取組の円滑な実現に必要な、e-learning開発、その活用をささえる共通システム開発と人材開発については、日本福祉大学がコーディネートし、連携校や次項の各専門委員会と協議して取り組む。

@)e-learningコンテンツの制作体制など

 この取組の鍵はe-learningコンソーシアムの提供するe-learningコンテンツの活用であるが、その開発・制作は、科目担当者等との協議のもと、日本福祉大学の教育デザイン研究室(【資料9】)が担う。同研究室は、これまでの同大学の現代・特色GPの取組を通して、講義のモジュール分割、確認テストでの確実な学習、障害者対応など、インタラクション重視の学習効果の高いコンテンツの開発ノウハウを蓄積してきた。また、同研究室は、学習指導講師の配置による質疑応答などの一次対応や授業運営補助など、連携校での開講支援体制の構築も支援する。また、コンテンツ制作と開発スタッフ育成のe-learningプログラムなども開発する。

A)共通システムの開発(【資料10】参照

 日本福祉大学のLMS(nfu.jp)を改修し、学生・教職員にコンテンツを提供する共通LMSを構築する。その後、地域住民や卒業生、社会福祉施設、小・中・高校等にコンテンツを配信する仕組みを構築する。障害者や高齢者も使用できるよう、そのICT活用の研究に取り組む学外研究組織等との連携開発も視野に入れる。
 また、共通LMSの一機能である学生・教職員等のコミュニティシステムについて、日本福祉大学のSNSを改修して開発する。SNS上のコミュニティ等の活動が、日常的な情報交換による三大学の学生・教職員のつながりの創出や、相互の意見や過去の学習事例の参照による学習効果向上をもたらす。このシステムの利用を、地域住民や卒業生に拡大し、地域の要望の把握や、学生・教職員と地域諸団体(NPOや実習施設)などとの人的ネットワーク形成と知識共有を図る。
 なお、コンソーシアムの委員会の業務を支援するシステムや遠隔会議システムも導入する。

B)インストラクショナルデザインの人材開発

  職員のインストラクショナルデザイナー育成に取り組んでいる日本福祉大学が中心となり、その人材開発を進める。特に同大学の教育デザイン研究室を中心に、この手法によるコンテンツ開発を進めるだけでなく、三大学の教職員向けの研修会を実施し、一部をe-learning化する。

A連携事業推進にあたる委員会体制(【図2】参照)

この取組は、三大学が事業推進組織であるe-learningコンソーシアムを形成して推進する。e-learningコンソーシアム運営委員会が推進母体となり、各大学学長が指名する三大学の教職員で構成する。その中から運営委員長を三大学学長が協議して選出し、取組の総責任者とする。その所属大学の担当事務局が事業全体の事務とりまとめを行う。運営委員会のもとに、学長指名の三大学教職員で構成する専門委員会−社会福祉教育コンテンツ開発委員会、大学間交流事業推進委員会、地域事業推進委員会−を置く(事業ごとの各大学の役割に応じ構成比を設定)。実行組織である各専門委員会は、年度ごとに事業計画を立案し、その確実な遂行を図る。事務体制は各大学で中心となる課室等を決定し、専門事業の内容に応じて必要な体制をとる。

@)e-learningコンソーシアム運営委員会(委員長校:日本福祉大学)

 連携事業全体の推進母体。全体の事業計画をたて、各専門委員会の事業推進をとりまとめる。三大学間の調整やコンソーシアム運営規程・諸規則の作成など事業運営の総務を担う。また、取組全体をささえる共通LMSやコミュニティシステム、業務支援システムの開発も管轄する。

A)社会福祉教育コンテンツ開発委員会(委員長校:日本福祉大学)

 「新法」対応のe-learning社会福祉教育コンテンツの開発とその活用推進を主導。編集方針決定や品質管理、著作権処理、厚生労働省の基準との適合などを審査する。地域向け福祉教育の開発・推進も担う。

B)大学間交流事業推進委員会(委員長校:熊本学園大学)

  国内留学制度や短期間交流プログラム、その他の多様な交流事業の開発と、それに伴う各大学の諸条件整備も推進する。また、FDやSDなどの教職員交流を管轄する。国内留学制度の学習モデル等の作成なども担い、将来における三大学の共同学位授与の検討も進める。

C)地域事業推進委員会(委員長校:北星学園大学)

  「地域知」のe-learningコンテンツや地域の福祉課題に則した教材などの開発、地域や学生への提供・利用促進を担う。地域や学生のニーズなどを分析し、教材等の改善を図る。

(3)大学間の連携実績及び申請内容との相違点

 三大学は、東京・大阪圏を除く教育改革に熱心な中規模私立大学で構成する「六大学事務局長懇談会」(平成10年に三大学と広島修道大学で発足、その後、松山大学、沖縄国際大学が参加)にて交流を進めてきた。この懇談会は、年に1回、経営・教学、事務業務、学生募集などの情報交換をしている。国内留学・単位互換も一部大学間で実施され、スポーツ交流も行われている。今回の取組は、社会福祉士「新法」への対応をきっかけに、社会福祉学部をもつ三大学が連携するものである。

  これまでは意見交換と一部の交流事業の枠にとどまり、三大学間の教育・研究、大学運営面での実質的連携は進んでいなかった。今後はコンソーシアムのもとで、コンテンツ共同開発や単位互換などの制度整備を伴う教育面の実質的連携、事業推進のためのスタッフ交流や共同のFD・SDプログラムなどの大学運営面の実務的連携を進める。また、コンテンツ作成や教員交流などで、各大学の研究上の連携も促進される。将来の共同学位授与も、この取組を基盤に検討を開始する。実質的な連携のもとに、地方の私立大学から新しい高等教育システム開発や大学間の具体的な連携の形を発信する。

(4)評価体制等(【図2】参照)

 コンソーシアム四委員会の事業結果報告、各大学の自己点検・評価と外部評価、連携事業評価委員会(以下、評価委員会)による査定の三本柱で、評価を確実に事業に反映させる。

  まず、コンソーシアムの四委員会が、毎年度の事業計画を自己評価し、事業結果報告をまとめる。これを参照し、各大学の外部評価機関と自己点検・評価組織が、自大学の推進事業の第三者評価と自己評価を行う。これらの報告にもとづき、評価委員会が、評価指標により当該年度の事業を評価査定する(必要に応じて調査・監査)。この査定は、e-learningコンソーシアム運営委員長と三大学の学長に示され、評価に応じた改善が指示される。指示を受けた運営委員長には、改善計画提出とその結果の回答が義務づけられる。このように、事業計画・実行・評価・改善のサイクルで、確実な事業推進を図るものである。

  評価委員会については、事業に関わらない各大学の理事・教職員、地域事業の受益者、他大学関係者(インストラクショナルデザイン専門家や六大学事務局長懇談会の他の事務局長など)の三者で構成する。評価指標には極力定量的な達成基準を設定し、達成度に応じてA・B・C・Dの四段階に評価する。B以下のどの評価でも運営委員長に改善と対応結果報告が指示されるが、D評価ではこれに加え、計画や設定指標自体に問題がないか評価委員会との協議のもとに再点検し、事業計画や評価指標の適切な見直しも含めた改善を行う。なお、評価は、各大学の諸機関や地域の関連諸団体などにも広く開示するものとする。

2.連携取組の年次計画等について

本取組の全体スケジュール及び各年次の実施計画を(【図3】)に示す。

事業 委員会
(委員長校)
NO 事業項目 平成20年 平成21年 平成22年
後期 前期 後期 前期 後期
eラーニングコンソーシアム eラーニングコンソーシアム運営委員会(N) 1 eラーニングコンソーシアム A:事業計画
A:運営諸規定作成
A:四委員会発足
A:事業計画の策定 A:事業計画の評価 A:事業計画の確認 A:事業計画の評価
A:フォーラム開催
2 共通LMSの構築 A:要件定義・開発(ポータル、配信フレーム) A:試行的運用開始
A:コンテンツ配信開始
A:改修作業 A:共通LMS本稼動・運用 A:実施・評価・改善
3 コミュニティーシステム(SNS)の構築 A:SNSの要件定義 N:SNS開発 A:SNS試験運用
N:SNS修正開発
A:SNS本稼働 A:実施・評価・改善
A:蓄積データ分析
4 地域・社会人への配信システムの構築   A:地域・社会人への配信システム検討 N:配信システムの開発 A:配信システム稼動 A:実施・評価・改善
社会福祉教育の質的向上・普及 社会福祉教育コンテンツ開発委員会(N) 5 e‐learning社会福祉教育コンテンツ A:編集方針などの検討確定
N:開発要因の配置
N:14科目の開発
N:5科目の開発
A:学習指導講師の配置
A:19科目配信開始 A:19科目の修正等  
6 福祉リカレント教育 A:地域ニーズ調査 A:地域ニーズ調査
A:プログラムの検討
A:配信方法の検討
A:プログラム策定
A:配信方法策定
A:地域へ配信・還元 A:地域等からの評価
7 福祉啓蒙教育 A:高校生向けプログラムの検討 N:教材・コンテンツ開発 (福祉社会入門、はじめてのふくし問う) A:試行実施 A:試行実施を踏まえ
たニーズ調査
A:プログラムを本実施・評価
学生の成長・教職員の資質向上 大学間交流事業推進委員会(K) 8 国内留学制度 K:プログラムの検討
K:制度整備検討  
A:プログラム策定
A:制度整備
K:ガイドブック作成
A:制度確立 A:本実施 A:評価
A:共同教育課程・共同学位検討開始
9 短期交流学習 K:プログラムの検討
A:プログラム策定 A:試行実施(N:知多学フィールドワーク) 
H、K:プログラム開発
A:制度確立 A:本実施・評価
10 多様な交流諸事業 K:プログラムの検討
A:プログラム策定
K:スポーツ交流企画検討
A:試行実施(N:語学発表会)
A:プログラム開発
A:制度確立 A:本実施・評価
11 ネットワークによる日常的FD・SD活性化 A:遠隔会議システムの活用
  A:SNS上のコミュニティ施行実施 A:SNS上のコミュニティ運用開始 A:評価・改善
12 インストラクショナルデザイン(ID)手法のよる教育・業務改善 N:IDの研修プログラム策定 A:IDの研修実施 A:IDの研修実施
A:各大学での開発機材等整備
A:IDの研修実施
A:e-learing開発担当者の相互交流
N:ID研修コンテンツの開発
A:各大学でのe-learing開発体制、運用の構築
A:評価・改善
13 共同FD・SDプログラム A:社会福祉教育コンテンツ共同開発
A:共同プログラム検討
A:e-learning授業改善事例集約
A:共同プログラム検討
A:e-learing授業改善等事例報告会
A:共同プログラム策定
A:共同プログラム実施 A:実施・評価
「地域知」の 形成と還元 地域事業推進委員会(H) 14 『地域知」コンテンツ H、K:コンテンツ検討・実地調査 H、K:コンテンツ検討・実地調査
A:開発着手 
A:日本福祉大学「知多学」配信・評価 A:開発
(北海道学[案]、熊本学[案]など)
O:実施・評価・改善
15 地域の福祉課題対応 A:福祉課題の調査 A:開発着手   A:地域の福祉紹介コンテンツの配信
A:福祉語学教材開発
O:実施・評価・改善

 ※担当校を表す  A:全体、 H : 北星学園大学、 N : 日本福祉大学、 K : 熊本学園大学

【図3】全体のスケジュール

 

 平成20年度から22年度の本取組の実施事業は、以下の通りである。

[平成20年度]
三大学によるe-learningコンソーシアムを形成し、運営委員会と三つの専門委員会、評価委員会を設置する。コンソーシアムの運営諸規程・諸規則を策定し、本取組の事業推進に着手する。本取組推進の基盤をなす共通LMSのシステムについては、その要件を定義し、次年度の試行的運用開始に備える。また、共通SNSについても要件定義を行う。三つの推進事業の中では、法改正を目前に控えた課題であるe-learning社会福祉教育コンテンツの開発を中心に進める。編集方針など開発の前提事項を決定し、まず14科目分のコンテンツを開発する。地域を舞台にした福祉教育実施に向けて、福祉施設などの具体的な状況・ニーズの詳細な調査と、日本福祉大学の既存科目・教材をもとにした高校生向けコンテンツ制作の検討を進める。大学間の学生交流は、学生の成長を図る新しい連携プログラム提供を目指して、国内留学制度(必要な制度整備を含む)、短期交流学習プログラム、交流諸事業の検討を行う。教職員の資質向上を目指した共同のFD・SDプログラム、インストラクショナルデザイン手法研修も実施に向けた検討を進める。これらの諸課題への取組には、三大学教職員の日常的な交流が欠かせないが、まず遠隔会議システムの活用などでそれを促進する。地域展開については、「地域知」コンテンツ開発の検討・実地調査に着手するが、これは大学の地域活性化における役割を明確にする取組の第一歩であり、その過程で地域とのコミュニケーションを一層活発にしていく。

[平成21年度]

  e-learningコンソーシアムの事業全体を、事業計画のもとに着実に進め、評価も受ける。共通LMS・SNSともに試験運用を開始し、必要な改善を行う。また、地域向け配信システムも開発する。社会福祉教育コンテンツは、残り5科目の開発を完了し、大学教育への活用を開始する。福祉リカレント教育は、配信方法も含めてプログラムを策定し、次年度実施に備える。福祉啓蒙教育については、コンテンツを開発し、試行的に連携大学付属高校の教材として提供する。大学間交流は、国内留学制度の次年度実施に向け、制度整備を完了し、参加者を募集する。また、短期交流学習プログラムや交流諸事業を試行的に実施し、三大学の学生の直接的交流を実現する。日常的な教職員交流も、FD・SD進展に具体的につながるよう、SNS上に実験的コミュニティを開設する。教職員の資質向上の鍵となるインストラクショナルデザイン手法研修を実施し、教育・業務改善の共通基盤の形成を図るとともに、e-learningの開発ノウハウの共有化も進める。「地域知」コンテンツは、当該年度開講の日本福祉大学「知多学」を事例として三大学間で評価・検証しつつ、その開発に着手する。その際、大学として、各地域の価値・魅力の掘り起しと、地域づくりに取り組む人々の思いや苦労などの把握に努め、コンテンツ開発と同時に、地域とともに学びあう大学となるよう検討を進める。

[平成22年度]

  補助事業助成期間の最終年度を迎え、これまで検討・準備・試行実施を進めてきた共通LMS・SNS、福祉リカレント教育と福祉啓蒙教育、学生間交流事業、SNSのコミュニティ運用、共同FD・SDプログラム、「地域知」コンテンツについて、三大学において本格的実施を図り、大学間連携戦略の短期的事業を完遂する。その事業についての総括を行い、フォーラムを開催して成果を広く社会に発信する。特に、「地域知」コンテンツの開発と地域向け配信の開始により、検討・開発の過程で築かれた地域とのコミュニケーションの基盤をさらに深め、連携戦略における中・長期的課題である大学の地域づくり拠点化に向けた展望を示していくこととする。さらに、国内留学制度の進捗・評価を踏まえ、共同教育課程・共同学位制度の検討を開始する。

[中長期的スケジュール] (詳細については【別添2】「大学間連携戦略」を参照)

  この取組の将来目標は、e-learning活用を基盤とした、さらに広域の「大学連携・生涯学習型ネットワークキャンパス」(以下、ネットワークキャンパス)による、大学の新たな知と学びの創出にある。平成23年度〜25年度までの中期(T)、26年度〜29年度の長期(U)の課題と展望は、以下の通りである。

  1. (T)・ネットワークキャンパス形成に向けての拡大・拡充(参加大学・学習者・展開地域)
    ・さらに広域のe-learning展開(連携校での自製開発、オープンコースウェアなどとの連携)
    ・社会福祉教育の実習・研究面での連携拡大、社会福祉教育以外の分野の教育コンテンツ開発
    ・国内留学制度・交流諸事業・FD・SDの取組拡大、共同学位制度の検討促進
    ・「地域知」間の知見交流、「地域知」コンテンツの地域拡大、大学の地域づくり拠点化
  2. (U)・ネットワークキャンパスの海外への拡大・展開
    ・e-learningの普遍化による大学教育イノベーションの創出
    ・社会福祉分野での共同研究機構、日本およびアジア・極東の研究拠点形成、新しい知の創出
    ・ネットワークキャンパス内の共同学位・複数大学単位認定による学位授与、職員交流新展開
    ・地域づくり拠点機能の高度化、総合的「地域知」学と地域づくり人材養成プログラムの創出

[本取組期間終了後の連携大学における取組の展開予定(財政措置を含む)]

 本取組終了後は、連携大学それぞれに学内予算措置を行い、連携事業推進組織と評価組織を継続運営し、各地域のニーズと各大学の特質に基づいたさらに多様な連携事業を展開する。大学間連携戦略の目標の達成に向けて取組を継続し、着実に推進を図る。