プログラムの概要

取組について
 (1)取組の概要


  本学では、現代社会において、経済・開発、行政・経営、芸術文化活動など、人々の日常生活に広く関連するようになった広義の福祉を「ふくし」と呼んでいる。福祉の総合的大学としての本学の教育資源を活用して、広範な仕事の広がりに対応したキャリア教育体系を構築し、「新ふくしキャリア教育」として福祉ビジネス企業をはじめ、様々な職場で福祉をテーマとした事業の展開と創造を進める人材の育成を行う。この教育は、基礎教育、専門基礎教育、キャリア形成教育の3体系からなる「新ふくしキャリア教育カリキュラム」に基づいて推進する。各教育体系は講義科目、実践科目、進路レポートで構成する。また教育支援システムとして、総合評価表、キャリアクレジット制度、進路開拓力判定で構成するキャリアポートフォリオシステムを導入する。キャリアクレジット制度は、学生のキャリアアップのための学内地域通貨制度としても展開し、学生の主体性の形成を促す。

 (2 )取組の趣旨・目的


@背景〜「ふくし」時代のキャリア教育〜

 
現代の福祉は、経済・開発、行政・経営、芸術文化活動をはじめとして、人々の日常生活に広く関連するような幅広い概念で捉えるべきものに発展している。このような広義の福祉の研究は、新たな学問領域の形成にもつながる大きな課題である。同時に、現代の福祉は、新たな事業の創出とそれにともなう雇用増大をもたらす一大産業として展開しつつある。すでに、高齢化やノーマライゼーションの進展に伴い、福祉の仕事は、公的機関、社会福祉法人、医療法人ばかりでなく、非営利団体、企業にも大きく広がり、その担い手として、福祉にかかわる基礎知識と実務能力を身につけた人材の養成が社会的急務となっている。本学は、この広義の福祉を「ふくし」と名付け、新しい福祉の諸相についての教育を4つの学部で分担・協力して行っている。企業もこの広義の福祉にかかわる人材の養成に高い関心を示しており、有望な進路の一つとして学生の関心も高い(資料4)。この広範な仕事の広がりに対応したキャリア教育体系を構築し、社会的要請に応えるとともに、学生のニーズにもより適切に対応したい。

A養成する人材のイメージとそのニーズ

  新時代の福祉を広く理解しキャリア形成に取り組む人材、新しい福祉を様々な職業分野で切り拓く人材、福祉を素材とした事業の革新と創造ができる人材を養成する。
  そのニーズは、まず福祉ビジネスにかかわる企業にあると考えられる。健康、福祉機器、関連サービスなどの産業は、経済産業省の「新産業創造戦略」(平成16年5月)で、「社会のニーズに対応した市場の広がりに応えるサービス産業群」の一つとして発展が期待されている(資料5)「若者の自立・挑戦のためのアクションプラン」(平成16年12月、若者自立・挑戦戦略会議)でも、ヘルスケア分野の「経営技術」と「事業実態」の両者に精通する複合的な人材養成の必要性が明示されている。次に、福祉への業務展開を志向する各種産業でのニーズが考えられる。金融、流通、製造など多種多様な分野の企業が福祉をビジネスチャンスと捉える中で、福祉を理解する人材の活躍の場が広がっている(資料6)。アクティブ・シニアの増加や共用品の市場拡大に対応する営業部門や企画部門、福祉の心をもった豊かな人的対応能力が必要な接客部門、障害者雇用を促進する人事部門などで人材が求められているといえる。その他、福祉NPO、ビジネスとしての発展を志向する社会福祉法人・医療法人などでの活躍が考えられる。


B教育の目標と効果・成果 

本取組の教育目標としては、次の3つである。まず、基礎教育で、職業意識と能力の基礎を養成する。建学の精神を浸透させ、社会的使命感と、社会に主体的にかかわる姿勢を養う。また、大学への帰属意識形成と学習動機付けもはかる。これらは、学ぶ力、働く力、生きる力の源泉となり、キャリア形成を力強く支える土台となる。次に、専門基礎教育で、広義の福祉に対する職業意識と能力を形成し、福祉と様々な仕事の結びつきを理解した学生を育成する。学生はこの学習経験を強みとし、専門学習を一層活発に進め、自信をもってキャリア形成に向かう。さらに、キャリア教育の拡充とシステム化によって、主体性をもって能力形成に取り組む学生を育成する。これまでのキャリア教育の実績をふまえ、進路レポートや総合評価表を活用して、1年次から個別学生の状況を把握しつつ教育にあたる。
  教育の効果や成果として、就職実績全体の向上が期待される。福祉を広く学んだことを効果的にアピールし、福祉ビジネスや福祉参入企業はもとより、多様な産業での採用の可能性を広げる。また、学部間の教育連携の進展、福祉をテーマにした専門学習の活発化など、教育活動への効果も期待できる。これは、学生のアイデンティティー形成や、本学の教育の社会的意義の明確化につながる。また、効率的なキャリア教育・支援の方法が確立する。なお、建学の精神を軸に社会的使命感をもって主体的に動く人材を養成することは、フリーターやニート減少への社会的要請に応えることにもなる。


 (3)取組の実施体制等(具体的な実施能力)

@新ふくしキャリア教育の全体フレーム(資料1)

 新ふくしキャリア教育は新ふくしキャリア教育カリキュラムとキャリアポートフォリオシステムによって構成される。
 この教育カリキュラムは、新ふくし基礎教育(基礎科目群)、新ふくし専門基礎教育(専門基礎科目群)、新ふくしキャリア形成教育(キャリア形成科目群)の3つの教育体系で構成する。それぞれの教育体系は、すべて講義科目、実践科目、進路レポートで構成され、学ぶ、動く(作業や実体験)、まとめる・書くという要素を組み込む。
  キャリアポートフォリオシステムは、この取組のオペレーティングシステムとして、教育の実効性を支える。総合評価表(学生カルテ)、キャリアクレジット制度、進路開拓力判定の三要素で構成される。
  なお、既存の学部におけるキャリア教育、進路(就職)支援などとは、相互に補完、刺激しあい、関連性を明確にしつつ、協働して学生の教育にかかわるものとする(資料2)

A新ふくしキャリア教育カリキュラム 〜教育コンテンツ〜(資料10)

 以下のとおり、新ふくしキャリア教育課程を全学で設置する。

 

A-1 新ふくし基礎教育 〜初年次のキャリア教育〜 

 基礎科目群で1年次の基礎教育に取り組む。講義科目は、1年前期の全員履修科目として、「日本福祉大学の歴史」(2単位)と「福祉社会入門」(2単位)をe-learningで開講し、建学の精神と新しい福祉の学問的な広がりを教育する。実践科目は、「ちょっとわーくプロジェクト」として「基礎キャリアワーク」を開講する。社会との接点を模索するワークに取組み、振返りレポートで評価する。大学主催の諸企画での職場見学や社会人とのワークショップ参加、自主的なボランティア活動への参加、福祉NPOでのアルバイト体験などを対象とする。1年終了時に「進路レポートT」として、「ふくしとわたし(大学での学習と私の将来)」というテーマのレポートを提出する。これまでの学習を振返り、今後の学習や自己の将来と福祉の接点を問い直して、基礎教育を総括する。なお、優秀レポートのコンテストを行い、学内外に公表する。

 

A-2 新ふくし専門基礎教育 〜広義の福祉に対する4学部の教育資源活用教育〜

 2年次より、社会福祉制度・法務領域、対人援助・対人対応領域、ビジネス・マネジメント領域、先端技術領域などの領域を設定して専門基礎科目群を設置し、広義の福祉にかかわる仕事に従事するために必要なコア知識や応用力を養う。講義科目は、各領域の基礎知識や理論の概要を扱う「新ふくし特別講義」と、4学部や通信教育部の既存科目から選定された各領域にかかわるコア科目の履修モデル(新ふくしコア科目)で構成する。実践科目は、「もっとわーくプロジェクト」として、「新ふくし特講ワーク」を開講する。福祉ビジネスに携わる企業人による演習、福祉のもの作りや対人援助・対人対応のワークショップなどで、知識をより深く修得する。「進路レポートX」を4年終了次に提出し、自己の学習とキャリア形成を総括する。なお、この教育の副次的効果として、全学部において福祉をテーマにした卒業研究の増加が期待される。卒業研究と進路レポートXについては、優秀作品の報告集を発行し、学習成果と新しい人材モデルを学内外に示す。

 

A-3 新ふくしキャリア形成教育 〜学生の主体性を喚起するプログラム〜

 2年次以降に設置するキャリア形成科目群で、職業意識を高め主体的にキャリア形成にのぞむ姿勢を養う。講義科目として「福祉の仕事」(2単位、e-learning)を開講し、企業を含む様々な業界での福祉の仕事について理解を深める。実践科目は、「あっとわーくプロジェクト」として、学内外のフィールドワークおよび各種のキャリアアップ講習会(チャレンジキャリアワーク)で構成される。前者は、自主性の発揮、社会性の修得度などを振返りレポートで評価する。特に学内フィールドワークはイントラシップという名称で運営し、キャリア形成にかかわる学内諸活動を積極的に単位認定する。学内ボランティア活動や学校行事補助、社会人招聘講座の企画補助、業界研究会などの諸活動を対象とする。キャリアアップ講習会は、自己分析、マナー、業界研究など、キャリア・就職に関して、主にキャリア開発部局が運営する様々な講習会である。学生はこれらを活用し、必要な知識やスキルを獲得して、2年前後期、3年前期の「進路レポートU〜W」に取り組む。このレポート作成を通じて、学生は、進路への考えを整理し、自己のキャリア形成の評価と総括を行う。作成にあたっては、ゼミ指導教員やキャリアカウンセラーが助言・指導にあたる。ゼミ指導教員は、学生の進路レポートに目を通し、普段の学習活動などもふまえた総合所見を作成する。所見は総合評価表に記載して学生にフィードバックする。

Bキャリアポートフォリオシステム 〜教育のオペレーティングシステム〜(資料11)

 キャリア教育の実効性を高めるオペレーティングシステムとして、キャリアポートフォリオシステムを導入する。このシステムは、以下の三要素で構成される。

 

B-1キャリアクレジット制度と学内地域通貨としての展開

 キャリアクレジット制度はキャリア単位とキャリアポイントで構成される。キャリア単位は、新ふくしキャリア教育の諸科目の履修によって付与される。一部は上限を決めて卒業単位にも算入する。キャリアポイントは、学習や学生生活におけるキャリア形成にかかわる諸活動によって別途与えられる。キャリアポイントは、キャリアアップのための学内地域通貨として、キャリア形成にかかわる各種プログラムの受講やサービスの利用などに使用できる。

 

B-2 総合評価表(学生カルテ)の導入

 通常の成績評価に加えて、キャリアクレジットも記載した総合評価表を導入し、学生カルテとして使用する。キャリア形成能力が客観的、総合的に示されるため、学生は、これを自己理解のためのツールとして活用し、自己の強みへの気づきや正確な自己の到達点を把握することができる。また、キャリアポイントごとに関連するコンピテンシー属性を与え、獲得した各種の資質、職業意識、社会経験値をあらわすようにし、大学として、各自の進路開拓の力量を把握する。

 

B-3 進路開拓力判定による進路(就職)支援への移行

 3年前期に、総合評価表でのキャリア形成能力の評価を使って、進路開拓力判定を行い、進路(就職)支援への移行をはかる。いわば、キャリア形成能力の育成段階から、進路獲得行動に移行する際の「進級判定」にあたる。キャリア単位やキャリアポイントの取得度が要求基準を満たせば、進路・就職活動プランと履歴書・自己紹介書を提出させ、キャリアカウンセリングを経て求職登録をさせる。登録者は、各種上級プログラムの受講、各種就職関連証明書の発行、大学の求人情報閲覧などのサービスが利用できるようになる。基準値を下回る場合は、仮の求職登録を行わせ、復習プログラムを受講させる。受講終了後に上記の進路支援プロセスに組み込む。なお、大幅に基準値を下回る学生や、卒業・進級単位が著しく少ない学生については、学部と対策を協議して面談を行う。学習や学生生活上の問題を抱えている場合は、学部や専門部局での対応を優先させる。

C取組の実現に向けた実施体制について

 この取組は、大学運営会議のもとに置かれている教育改革推進委員会が所管し、教学担当副学長が責任を負う。教員の体制としては、キャリア開発部長と教務部長が同委員会のメンバーとして取組実行推進者となり、両部長が統括するキャリア開発委員会と教務委員会が協働し、学部と連携してプログラム運営にあたる。事務体制は、学習支援・キャリア開発課、学事課、情報社会科学部事務室があたる。直接の学生支援は、ゼミ担当教員、担当部局の職員、専属のキャリアカウンセラーが担う。また、プログラム全体の運営にあたるキャリア教育コーディネータを配置する。なお、社会資源の活用として、同窓会、大学後援会、大学の社会連携部局との連携を強化する。特に、長寿社会ビジネスの研究を目的とする本学と企業等との勉強会「三水会(約40社参加)」からのゲスト講師招聘などを行う。

D取組の独創性、新規性について

 本取組は、キャリア教育プログラムに拡大発展性を与えるものとなる。キャリア単位の設定で、大学の卒業単位数に大きな影響を与えず、キャリア科目の増設や改編が可能となる。これにより、学生のニーズにあわせて、キャリア教育を柔軟に推進する道が拓かれる。また、キャリアポイントは、達成度の客観化とともに学内地域通貨として活用することにより、キャリア形成への自己の努力が形となり、さらに自分を発展させるために生かされる。これには、学生の主体性を促す要素がある。さらに、新産業の人材養成のあり方を明確にすることに寄与できる。これは、「若者の自立・挑戦のためのアクションプラン」に示されたヘルスケア部門の人材養成像ばかりでなく、より広義の福祉人材像モデルを社会に示すものである。

 (4)取評価体制等


 教学担当副学長が所管する全学評価委員会がキャリア教育の評価を担う。また、第3者評価機関の外部評価委員会に諮問するものとする。授業科目の評価には学生による授業評価を、諸講座では学生アンケートを実施する。その他の正課外プログラムやキャリア支援全般については、定期的な満足度調査で評価する。評価データを全学評価委員会で分析し、改善プランを含めて報告、提案する。改善プランを示された各学部や担当部局は、全学評価委員会に対して改善結果の報告が義務付けられる。この作業を年次的に実施し、プログラムの改善を確実に行うものとする。

 (5)教育改革への有効性


 この取組の有効性は次のとおりである。まず、進路レポートと総合評価システム導入により、ゼミ指導教員によるキャリア教育の方法が確立される。これまで、各教員の自主性に依拠してきた指導教員のキャリア教育・支援について、レベルの底上げと均質化がはかられる。これにより、個々の学生への支援が徹底し、大学全体の教育の生産性が高まる。
  次に、共通プログラムの推進や卒業研究の優秀作品報告集の発行などにより、新しい福祉にかかわる学習モデルが示され、学部間の教育交流が活発化する。また、福祉ビジネス分野の人材養成モデルが確立し、全学統一の人材養成目標の設定につながる。なお、これらのモデルは同様の人材養成に取り組む他大学の教育活動にとって参考になるものと思われる。また、キャリアポートフォリオシステムで大学教育像が総合的で多面的なものとなる。学生生活の諸活動がキャリア教育の構成要素として組み込まれ、学生は能力向上を目標に諸活動に取り組むようになり、毎日がキャリア形成のフィールドであるという意識が醸成される。学生の大学コミュニティ参加も促進され、学生参加型の新しい教育プロジェクトの立ち上げを促進し、一層の教育改革を促す契機ともなるのである。


(参考) 
@キャリア教育にかかわる今日までの教育実績

 本学はこれまで、各学部でキャリア教育の検討と実践を積み重ねてきた。インターンシップについては、我が国のインターンシップ草創期の平成10年度より科目を設置し、単位認定を行っている。以来、地域の経営者団体などとも連携しながら、全学で積極的に取り組み続けている。参加希望者と研修実績は年々増加し、平成17年度は228名の学生が参加した。うち8名は海外の日系企業での研修である(資料7)。今後は、1セメスター期間の長期インターンシップ実施を目指している。キャリア教育関連科目は、平成12年度より経済学部ではじめて開設し、現在、同学部では「キャリア開発T・U・V」(2年前期〜3年前期)の3科目構成となっている。Tは社会人講師も活用した職業意識醸成、Uはキャリア形成にかかわるスキルアップ、Vは就職活動直前の意識付けと準備を扱っている。各学部の科目設置状況は(資料2)のとおりである。なお、平成18年度より、様々な業界で活躍する卒業生とその仕事を紹介した冊子『新「ふくし」キャリア時代』を教材として使用している(資料8)。また、それ以外にも、学部の科目や学部ガイダンスなどで、キャリアをテーマとした講義や企業経営者などによる講義が組み込まれている。また、平成13年度よりCDP(Career Development Program)センターを設置し、資格取得対策講座や公務員対策講座などを運営している。毎年のべ1500名を越える学生が受講している(資料9)。経済学部、福祉経営学部、情報社会科学部には、資格を取得による単位認定制度がある。その他のキャリア形成にかかわる教育事業として、ビジネスプランコンテストや合宿型の新入生セミナーでの卒業生参加の諸企画などがある。

A実施体制等の今日までの経緯

 平成13年4月に教学組織である就職部をキャリア開発部に改組した。同時に事務部局が、就職課からキャリア開発課に改組され、CDPセンターの事務も所管することになった。
  平成15年5月から、さらに学習支援・キャリア開発課として、キャリア開発と教務を融合した事務体制に改組された。進路にかかわる全員面談や履歴書添削、模擬面接など、一人一人の学生に対応した就職支援に取り組むとともに、インターンシップのマッチング、学内のビジネスプランコンテスト運営や、新入生セミナーの企画など、キャリア教育のサポートを行っている。
  また、本学は、通商産業省(平成10年度当時)の中部通商産業局のインターンシップモデル事業を引き継いだ東海地域インターンシップ推進協議会の事務局を担当し、東海地域全体のインターンシッップ発展に尽力している。
  なお、福祉経営学部では、平成17年度に経済産業省から医療経営人材育成事業が委託され、その成果が蓄積されている。同じく平成17年度に情報社会科学部に福祉テクノロジーセンターが設置され、ものづくりや最先端技術の観点から福祉にアプローチする体制が整っている。これらの実践に新ふくしキャリア教育のコンテンツは支えられるものである。


   
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