既成概念にとらわれず
誰もが楽しめるスポーツを創る

障がいのある人達が楽しめるように考え出された"アダプテッドスポーツ"。
競技の本質を理解し、障がいと向き合ったとき
共に笑顔になれるスポーツが生まれる。

音が鳴るピンポン球

 さっきまで体育館中に響いていた楽しそうな声がピタリと止んで、息を飲むほどの静けさが訪れた。
「・・・いきます」
 掛け声のあと、カシャンッ―カラカラカラカラ―・・・
ピンポン球が転がり、音が鳴った。
 日本福祉大学の学生がこの日、授業で挑戦していたのは、 STT (サウンドテーブルテニス)というアダプテッドスポーツだ。視覚障がい者のために創り出された卓球で、転がると音が鳴るピンポン球、音を吸収しないようラバーを外したラケット、イン・アウトをジャッジするためのエッジがついた卓球台と、専用の道具を使用する。

 指導教員は日本パラ陸上競技連盟の理事長も務める三井利仁先生だ。
「授業では、視覚障がい・脊髄損傷(車いす)・脳性マヒ・知的障がいについて理解を深め、障がいのある人が“スポーツにおいて何を不便と感じるのか”を探りながら、体験を通してアダプテッドスポーツについて学んでいます」
 この日の授業では、まずはグループに分かれ、学生たちに普通の卓球を始めてもらった。楽しげな声があちこちで上がる。しばらくしてから、グループ内のひとりにアイマスクをしてもらう。さて、どうすれぱ良いか。グループ内の空気が少し変わる。
「この“変化した雰囲気”を体感することで、新たなスポーツを創り出すときのイメージが沸いてくるんです。何かを変えなければアイマスクをしている友人に“楽しんでもらえない”という状況です。そこで考え、既成概念にとらわれずにルールや道具をアレンジしていく能力を身に付けてほしいですね」と三井先生。

二次元での真剣勝負

 視覚障がい者のスポーツの多くは、二次元的な手法を採っている。例えば卓球なら、球が空中を飛ぶことはなく、常に卓球台の上を転がってラリーが続く。学生たちは事前にその知識を得た上で、 STT専用の道具を使い、試行錯誤しながら、視覚障がい者も楽しめる卓球の方法を考える。球を転がすと中央の、ネットが邪魔になると考え、ネットを外す女子学生や、アイマスクを着けた友人の体に触れて声をかけながら誘導する学生。「球がそっち行ったら名前呼ぶね!」「点が入ったら言うから」「右!あ、左!左!」など、活発な声が体育館に響き渡る。
 全員がそれぞれアイマスク着用を体験したあと、三井先生はメインコートを作り、「試合形式でゲームをします」と声をかけた。
「視覚障がい者にとって、音は大切な情報のひとつ。真剣勝負です。サーブの時だけ声をかけて、ピンポン球の音が聞こえるようにしてください」
 冒頭の一節はこのときの学生たちの様子だ。静まり返った体育館に、STT専用ピンホン球のカラカラという音だけが響く。
「競技としての真剣勝負の雰囲気も味わってもらいたかったんです。みんなで楽しむときはわいわい声を出してしまうんですけど、視覚障がいの方たちにとって“音”がどれだけ重要になるのか、それを経験しておくことが、将来どこかで必ず役に立つと思います」

TEACHER'S VOICE

障がい者スポーツの祭典・パラリンビック“2016年リオ”ヘ!

オリンピックと同じくバラリンピックでも、陸上競技は花形である。アスリートたちは、身体のどこかに障がいがあり、用具やルールによる“工夫”をしている。また障がいの程度による不公平をなくす“クラス分け”というシステムがあり、障がいやその状態により参加できる競技種目も変わる。最近では“パラ陸上競技”と呼ばれる障がい者の陸上競技もクラスごとに競技が行われ、車いす競技では、トラック競技専用の車いす“レーサー”の使用で、より速く走れるようになっている。下肢切断の選手は“板バネ”と呼ぱれる力ーボン製のスポーツ用義足を使用しており、その性能は一般競技と競えるほどである。また、視覚に障がいがある場合、ある程度の視力・視野がある選手は単独での競争が可能となるが、全盲選手になると“ガイドランナー”と呼ばれる伴走者、投擲・跳躍種目では手を叩くなど音でコースを知らせる“コーラー”の存在が必要不可欠となる。基本的には一般の陸上競技と同じルールが適用される。今年の夏は、これらに注意して観戦してみてはいかがでしょうか。

三井 利仁(みつい・としひと)博士(医学)

日本福祉大学全学教育センター准教授。国際パラリンピック委員会陸上競技部門国際技術委員(ITO)/コーチ委員会委員、(公財)日本障がい者スポーツ協会、障がい者スポーツコーチ部会副部会長、日本パラリンピック委員会強化委員会委員/運営委員会委員、日本オリンピック委員会強化スタッフ【医科学】、(一社)日本パラ陸上競技連盟理事長、日本障がい者スポーツ学会理事。和歌山県立医科大学みらい医療推進学講座助教を経て、2016年7月より日本福祉大学へ赴任。

standard愛知とは…

『スタンダード愛知』は、中埜総合印刷株式会社(本社:愛知県半田市 ※注1)が発行する、愛知県のスポーツ情報を発信する県内唯一のスポーツ専門雑誌(年6回発行、発行部数2万部)。スポーツ科学部の魅力を伝えるため、上記の雑誌に本学スポーツ活動(正課・正課外)のコンセプト(「する・みる・支える・伝える」等)に沿った活動事例の紹介と、スポーツに関係する本学教員のコラムを掲載しています。

この記事は、中埜総合印刷株式会社の許諾をえて本学WEBサイトに転載しています。 

※注1「中埜総合印刷株式会社」

http://www.nakanoprint.co.jp

“味ぽん”でおなじみのミツカンの関連会社。食品・外食業界に特化した会社として、ミツカンを始め多くの企業の販促プロモーションを手掛けています。『おいでよ。スポーツ科学部(仮)』のWEBドラマも、同社の協力により制作しました。

Standard愛知 × 日本福祉大学

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キーワードに“スポーツ” と “ふくし” の
可能性を届けるSpecialコラム。

FEATURE 01
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ニュースポーツの学びを通し
スポーツマンシップを身につける。

FEATURE 02
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チームの活躍を支える

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FEATURE 05
“見る”スポーツ

スポーツ科学部スペシャル対談