36℃の言葉。あなたの体温を伝えてほしい。 2018年度 日本福祉大学
第16回 高校生福祉文化賞 エッセイコンテスト入賞作品集
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入賞者発表
第1分野 ひと・まち・暮らしのなかで
第2分野 スポーツと わたし
第3分野 日常のなかで つながる世界
第4分野 社会のなかの「どうして?」
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入賞者発表
第4分野 社会のなかの「どうして?」
審査員特別賞 「ごめんね」と「ありがとう」
学習院女子高等科 3年 三原 黎香

 「現在◯◯線では、十分程の遅れが出ております。ご利用のお客様には大変ご迷惑をおかけしております。申し訳ございません。」
 思えば、先週も聞いたようなこのアナウンス。最後の文句を聞く度、私は違和感を覚える。なぜ「申し訳ございません」なのだろう。電車遅延の原因の多くは危険感知や乗客の救助で、鉄道会社の過失ではない。謝る必要などないではないか。
 ここでの謝罪は、待っている利用者への感謝の意味で使われている。日常会話でも「ごめんなさい」の一言は、自分に過失がある時だけでなく、相手に何かをしてもらった時によく使われる。例えば友人がレストランの予約をしてくれた時に思わず口をついて出てくる「ごめんね」は、感謝の表現だ。
 しかし、感謝と「ごめんなさい」をイコールで結ぶことはできない。謝罪は本来、自分の非を認めて許しを乞うことであり、「誰かに迷惑をかけられた」という受け手の前提を伴う。感謝の意味での「ごめんなさい」でも同じで、受け手は知らず知らずのうちに自分が被った迷惑を意識してしまう。遅延を知らせる駅の放送では、「申し訳ございません」の一言が「待たされている」という事実を私たちに思い出させ、鉄道への苛立ちを呼び起こすのではないだろうか。
 もしアナウンスが「十分程の遅れが出ております。お待ち頂き、誠にありがとうございます」であれば、苛立ちはかなり和らぐだろう。むしろ、安全のために対処している鉄道職員にこちらが感謝したくなる。「ありがとう」で伝える感謝が、受け手の心を「人の役に立っている」という充実感で満たしていく。
 今日から、友だちの親切には「ごめんね」ではなく「ありがとう」でこたえよう。私からの感謝を、相手が気持ちよく受け取れるように。もっとたくさんの「ありがとう」が交わされる街にしよう。感謝の言葉に込められた、人の温もりが皆に届くように。

講評

 視点がとても面白いと思い、選びました。たしかに私たちは何かしてもらった時など、本来は「ありがとう」と言うべきところを「ごめんなさい」と言い過ぎていると気づかされました。一方で、電車が遅れていることに対しては「申し訳ございません」と言う方が自然だという審査コメントもあり、主張の説得力を増すためには他の例も挙げられたらより良い作品になります。

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