36℃の言葉。あなたの体温を伝えてほしい。 2016年度 日本福祉大学
第14回 高校生福祉文化賞 エッセイコンテスト入賞作品集
学長メッセージ
審査員の評価と感想
入賞者発表
第1分野 ひと・まち・暮らしのなかで
第2分野 スポーツと わたし
第3分野 日常のなかで つながる世界
第4分野 社会のなかの「どうして?」
学校賞
 
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入賞者発表
第4分野 社会のなかの「どうして?」
優秀賞 同じだった
新潟県立柏崎総合高等学校 3年 植木 瑞希

 「会いたい、話したい、無性に」この言葉を聞いた瞬間私の頬を冷たい何かが濡らした。涙だった。人前で泣くことが嫌いだったはずなのに。ついさっきまで先生の目を盗んで友達とヒソヒソ話をして笑っていたはずなのに。
 私が通う高校では修学旅行で鹿児島県を訪れ、平和学習に取り組むことになっていた。「平和学習とか面倒くさー」と友達に愚痴をこぼす。私はそんな最低な心構えでその日を迎えたのだ。
 初めに訪れた場所は知覧特攻平和会館。特攻服などが並ぶ館内である資料が気になった。「同じ歳?」そこに写る少し微笑んだ青年は私と同じ十七歳。鳥肌が立った。同じクラスで話す男子が国のために命を捧げるなんて考えられない。でも、考えられないという自分が幸せだと思った。
 資料館を後にし、講演を聞きに行った。そこであの言葉を聞いたのだ。「会いたい、話したい、無性に」特攻兵が結婚の約束をした彼女へ贈った言葉だった。「特攻兵は皆笑って戦地へ行った」そんなのは全くの嘘。最期に彼女と話がしたい、それが叶わないのなら見るだけでもいい、そう願った。国民に神と呼ばれた彼の心は私と同じ人間だった。遠い遠い過去の世界の人に見える彼の心は、今生きている私と同じだった。それを知り涙が出てきた。そして、この死を無駄にしないでという声が聞こえた気がした。
 私は今、平和な世の中で生きている。でもこの幸せはいつまで続くのだろうか。世界へ一歩踏み出すと、戦争をしている国がまだ多くある。私が彼のように悲愴な思いをする未来はそう遠くないのかもしれない。彼のような辛さを味わい、無念の涙を流す人がもう二度と現れないようにするのは、まぎれもない私達だ。私にできること、それは人間らしく生きる姿勢を常に失わないこと。それから、人間の心を忘れかけている人へそっと優しく教えてあげること。

講評

 修学旅行で知覧特攻平和会館を訪れた時に感じた気持ちを素直に書いていて、作者の感情の変化がよく伝わってきます。戦地に赴いた青年たちと自分たちが同じ世代、同じ人間であり、「私と同じだった」と気づきます。その感情が当時と今との違いを際立たせ、リアリティが伝わり、好感の持てる作品に仕上がっています。
 「会いたい、話したい、無性に」を冒頭だけでなくエッセイの中盤で繰り返したことも、この言葉の印象をより強いものにしています。また、後半で感傷を決意に変え、自分ができることをしっかり考え、表現している点が良いですね。

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