「あ、ついていけない…」そう感じた。目の前を行き交う人は皆、私と違う言語で会話している。そのあまりにも非日常な光景はビデオの早送りのように見えた。 昨年の十月。学校の海外研修で訪れたのはニュージーランド。日本にいた時から外国の人と話すのが好きだった私は、三週間のホームステイと現地校での授業を楽しみにしていた。 空港に着いた次の日。ついに現地校登校日。たくさんの人が一気に英語で話しかけてくる。人数の多さに驚いて何も答えられずにいると、一人、また一人と私を囲んでいた子達がいなくなった。あぜんとした。キラキラと輝いていたこれからの三週間が一瞬にして崩れ落ちた気がした。伝わらないとしても何か話せばよかった。その日は結局誰とも話せず、とても後悔した。次の日、ホストシスターに昨日の出来事を相談する と、昼休みにバスケに誘ってくれた。ゲームが始まり、頑張ってボールを追いかけていた時だった。「ヘイ!マヒロ!!」その声と同時にボールが飛んできた。パス を出してくれたのは、昨日私から離れていったうちの一人。嬉しくて嬉しくて、必死にゴールまで走った。そして入った。その途端、はじけた笑顔で何人もの子が駆け寄ってきてくれた。それまでの不安がどこかへ飛んでいったような気分だった。 それからは毎日、お昼ご飯を食べながら他愛もないことで笑って過ごし、その後にはみんなでバスケ。その時間は、早送りでもなんでもない、幸せな現実だった。あの時バスケをしなかったら、みんなと話すことも出来なかったかもしれない。協力が必要なスポーツは、国境の壁、言語の壁をも越えるのだと実感した。ニュージーランドのバスケ友達とは、今も連絡を取り合っている。次会う時は、また一緒にバスケをする約束をした。また言おう。「ヘイ!パス!!」
海外でまったく言葉が通じなくて気持ちが落ち込んでいても、スポーツを通してあっという間に気持ちが通じるようになる。そんな驚きと喜びを、自分の体験を通してイキイキと書いている点を評価しました。「非日常な光景はビデオの早送りのように見えた」という不安な気持ちをうまく言い表した作者らしい表現も魅力的です。自分の学生時代を思い出して共感したという審査員もいました。「ヘイ!マヒロ!!」という、読者に「何だろう?」と思わせる題名も良いですね。