36℃の言葉。あなたの体温を伝えてほしい。 2016年度 日本福祉大学
第14回 高校生福祉文化賞 エッセイコンテスト入賞作品集
学長メッセージ
審査員の評価と感想
入賞者発表
第1分野 ひと・まち・暮らしのなかで
第2分野 スポーツとわたし
第3分野 日常のなかでつながる世界
第4分野 社会のなかの「どうして?」
学校賞
 
募集テーマ内容・募集詳細はこちら
応募状況
参加校一覧
HOME
入賞者発表
第1分野  人とのふれあい
優秀賞 黒い山〜ローカリズムとの出会い〜
鹿児島純心女子高等学校  三年 岡村 美秋

 去年の夏、私は緊張した重い足取りで、新宿美術学院のビルに入った。美術系の国公立大学を目指す私は、地元である鹿児島から、東京の大きな予備校の夏期講習会に参加した。毎朝重い油絵道具を持って満員電車にのり、友達一人いない予備校で、ただ課題をこなすだけの日々は、精神的にも肉体的にも辛いものだった。何もかもが鹿児島と違う生活に、私は疲れていた。

 講習会の中盤に差し掛かった頃、講師との個人面接があった。「芸大の試験は去年も今年も風景画を描かせたんだよ」。私が鹿児島の予備校で描いた風景画を見て、先生が話し始め、〝ローカリズム〞という言葉を教えて下さった。〝ローカリズム〞とは自分の住む地方や郷土を大切にする考え方である。「鹿児島に出張で行って、山が黒くて驚いた。東京の田舎の山は、もっと明るい黄緑色だから。天候や風土の違いで、その土地独特の森ができる。あの美しい濃い緑色は、まさに鹿児島の土地が持つパワーだと思う。でも、そのパワーを作品に生かすことができるのは、住んでいるあなただけだと気づいてほしい」。そう言われて、私は急に心が軽くなった。それまでずっと、地方から難関美術大学を目指すことは、不利だと思っていた。二十人あまりの生徒に対して一人の先生しかいない、小さな鹿児島の予備校。その中でレベルアップできるのか不安だった。しかし、もっと大きなパワーが、いつも私を支えてくれることに気づいた。〝ローカリズム〞はきっと私に力をくれる。今までは大都会の新宿と、地元の鹿児島の違いにおびえていた。しかし、その違いこそ、鹿児島の持つパワーだったのだ。

 鹿児島に帰る飛行機の中、私は窓の向こうに桜島を見つけて、なぜか安心した。鹿児島の小さな予備校の窓から、毎日のように見てきたもの。いつもより、どこか雄大でかっこいい。この土地が持つ大きな力。大好きな鹿児島こそ、私の宝物だった。

講評

 この作品もとても読みやすく、情景が目に浮かぶエッセイです。ずっと不利だと感じていた鹿児島が、実は「私の宝物だった」と気付き、誇りを持つようになった心の変化が上手に表現されている点を評価して、優秀賞に選びました。最初は暗いトーンで始まり、最後は明るい気持ちで締めくくる構成も効果的で、読み終えた後、作者と同様に明るい気持ちになりました。地元・鹿児島に誇りを持ち続け、これからも前向きな気持ちで絵を描いてほしいというエールを、作者に送りたいと思います。

UP