36℃の言葉。あなたの体温を伝えてほしい。 2016年度 日本福祉大学
第14回 高校生福祉文化賞 エッセイコンテスト入賞作品集
学長メッセージ
審査員の評価と感想
入賞者発表
第1分野 ひと・まち・暮らしのなかで
第2分野 スポーツとわたし
第3分野 日常のなかでつながる世界
第4分野 社会のなかの「どうして?」
学校賞
 
募集テーマ内容・募集詳細はこちら
応募状況
参加校一覧
HOME
入賞者発表
第1分野  人とのふれあい
最優秀賞 ばあちゃん+ワン
大阪市立南高等学校 一年  大庭  穂香

 「ナッツや」。
 大庭家の一日は、祖母の一言で始まる。私の祖母は認知症だ。だから家族で介護をするわけだが、我が家には小さなヘルパーさんがいる。犬のナッツだ。

 ナッツは、犬好きの祖母が甘やかした結果、すっかり祖母のことを見下すようになっていた。そんなある夜、祖父はナッツの吠える声で目が覚めた。夜中に吠えたことのないナッツを不思議に思い様子を見に行くと、祖母が外に出ようとするところだった。ナッツは、祖母の危険を祖父に知らせてくれたのだ。お手柄をほめられたのが嬉しかったのか、いつのまにかナッツは祖母の動向を見守るようになっていた。祖母が外に出ようとすれば吠え、帰ってくるまで玄関でうろちょろする。祖母が寝ころがっていると側に寝そべり、一緒に「相棒」を観ている。きっと彼は自分のことを副リーダーだと思い(最強は祖父だ)、子分である祖母を守らなければいけないと思っているのだろう。ナッツの、祖母を見下す態度は今でも変わらない。祖母にだけは「お手」をしないし、散歩も祖母をぐいぐいひっぱっていくし、主導権は完全にナッツだ。だが、祖母をみつめる彼のくりくりとした目と、ちぎれんばかりにぶんぶん振るしっぽを見るとわかる。彼は、なんだかんだ祖母のことが大好きなのだ。私は、そんな祖母とナッツの不思議な関係性を見るのが大好きだ。

 ここ最近、祖母の病気は急に進んだ。祖母が変わっていく様子を見るのは、家族みんな、もちろん私も辛くて、つい祖母に冷たくしてしまい、自己嫌悪に陥ることも多い。だが、ナッツは違う。ナッツは祖母の変化も私達の悩みもなんとなく気づいていると思う。それでも彼は、昔と変わらずくりくりとした目で祖母を見て、しっぽをぶんぶん振る。私達が変わっても、ナッツは変わらない。

 「ナッツや」。

 今日もまた、一日が始まる。

講評

 この作品が他の作品から頭一つ抜け、第1分野の最優秀賞にふさわしいと、審査員全員から高い評価を得ました。ユーモアにあふれ、読み終えた後に温かい気持ちになれます。題名の「ばあちゃん+ワン」も個性的ですし、作品の出だしと締めくくりが呼応していて、1編のショートドラマを見たような心地よい気持ちになります。これも、作者がよくおばあちゃんとナッツを観察しているからでしょう。そこに作者の想像力が加わって、おばあちゃんとナッツと、家族の情景が目に浮かぶ素晴らしいエッセイになっています。

UP