36℃の言葉。あなたの体温を伝えてほしい。 2014年度 日本福祉大学
第12回 高校生福祉文化賞 エッセイコンテスト入賞作品集
学長メッセージ
審査員の評価と感想
入賞者発表
第1分野 人とのふれあい
第2分野 あなたにとって家族とは?
第3分野 わたしが暮らすまち
第4分野 社会のなかの「どうして?」
学校賞
 
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入賞者発表
第3分野 わたしが暮らすまち
優秀賞 分かることと通じること
神奈川県立藤沢総合高等学校 三年 井手 梨央

 私の働く中華料理屋のコックさんは皆中国人で、日本語を十分に話すことはできない。そして、フロントのスタッフは皆日本人で、中国語を十分に話すことはできない。しかし私達はお店を営業し、心から通じあうことができている。
 高校一年生の冬、二つ目のアルバイトをする為、オープニングスタッフとして、この中華料理屋で働きはじめた。オーダー伝票は手書きで、コックさんに合わせて中国語で書く。はじめのうちはメニューを書くだけで時間がかかるのに、お客様からラーメンの麺は硬め、柔らかめ、油は少なめ、先にこの料理を出してほしいなどのメニューにない注文を受けたときにそれを伝えるのがすごく困難であった。単語で硬い、少ないなどといっても伝わらない為、手でジェスチャーをしたり、紙に絵を書いたりして工夫して伝える。お互い伝わらなくてイライラすることも沢山あったが、お客様がいない時にお互いの言葉を教えあったり、携帯電話の辞典アプリなどを使って会話をして仲良くなることができた。私は簡単な中国語をコックさんに教えてもらい、少しだけだが中国語が分かるようになった。そして何よりも、コミュニケーションをとるうちにどのように話したら伝わるかが分かるようになっていった。
 私がこの中華料理屋で働くようになって一年半たった今、私は中国語で、コックさんが日本語で、という“変な会話”もできるようになった。お互いの間違った発音を注意し合うのも、私達の“変な会話”の一つである。今でも、お互い母国語しか十分に話すことはできないし、分からない言葉は沢山あるが、相手の言っている事がまったく分からないということはない。言葉が分からない分、相手を分かろうとする気持ちがお互いにあるので私達は通じ合えている。国境や言葉以上に、お互いを尊重し合い、よい信頼関係をきずいていると自信を持っていえる。

講評

 「一度この店に行ってみたい」という気持ちにさせるほど、とても良く書けているエッセイで、この作品を強く推す審査員も大勢いました。アルバイトであっても、その中華料理店で働く一員として、中国人のコックさんたちと様々な手段でコミュニケーションを取り、相手を理解しようとする作者の頑張りがよく伝わってきます。必ずしも誰もができないような体験を高く評価するわけではなく、日常的な体験であっても、自分の視点で見て、しっかり考えて、読者に伝わるように書けば評価されます。この作品は、まさにそうした一例と言えるでしょう

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