36℃の言葉。あなたの体温を伝えてほしい。 2014年度 日本福祉大学
第12回 高校生福祉文化賞 エッセイコンテスト入賞作品集
学長メッセージ
審査員の評価と感想
入賞者発表
第1分野 人とのふれあい
第2分野 あなたにとって家族とは?
第3分野 わたしが暮らすまち
第4分野 社会のなかの「どうして?」
学校賞
 
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入賞者発表
第2分野 あなたにとって家族とは?
審査員特別賞 大家族のぬくもりの中で
岡山県立倉敷中央高等学校 三年 大月 歩美

 「あら、大きくなったなあ」
 妹と二人で散歩に出かけると、近所の人たちに声をかけられる。畑仕事をしているおじいちゃんも、犬の散歩をしているおばあちゃんも、みんな私たちのことを知っている。そして、私たちの成長を喜び、自分の孫のようにかわいがってくれるのだ。
 私が暮らしてきた北房は、初夏にはイルミネーションのように輝くホタルが飛び交い、秋には町いっぱいにコスモスが咲き乱れる、自然豊かな所である。しかし「自然豊か」といえば聞こえはいいが、バスの数も少なく電車も通っていないため、お世辞にも便利な所とはいえないだろう。小さな頃から、遊ぶのはいつも山や川。太陽の光をいっぱいに受けて育った私の肌は、人一倍まっ黒である。
 そんな私は、高校生になってから家を出て寮生活を始めた。高校の近くは、スーパーもコンビニも歩いてすぐの所にあり、今まで住んでいたのとは真逆の環境だった。それまで憧れていたはずの田舎を出ての暮らし。しかし、実際に離れてみて感じたのは、故郷である北房への恋しさだった。
 そして考えてみると、私は今まで気付いていなかった北房のよさが分かった。地域のみんなが、一つの大きな家族なのだ。散歩に行くと声をかけてくれるおじいちゃん・おばあちゃんも、近所の子どもたちも、ホタルもコスモスも、大家族の一員だ。暑い日も寒い日も「体に気を付けにゃあいけんで」と声をかけ合い、作った野菜をおすそわけして、お互い支え合いながら暮らしている。それは、大家族のつながりから生まれる愛があるからこその暮らしだと思う。
 今思い返せば、小学校の登下校中に地域の人からかけられる言葉は「いってらっしゃい」と「おかえりなさい」だった。ずっとずっと、大家族のぬくもりの中で育ってきた私。今度は私が、周りへぬくもりを与える番だ。私もいつか近所の子どもに言うだろう。「大きくなったなあ」と。

講評

 高校生になり寮生活をするようになって、幼い頃には感じなかった故郷の良さを再認識し、成長した作者の気持ちが素直に表現された作品です。「秋にはコスモスが咲き乱れる」「太陽の光をいっぱいに受けて育った私の肌」といった情景が目の前に浮かぶような表現が心地よく、細かいところまで気を配った文章になっている点を評価して、審査員特別賞に選びました。後半の「いってらっしゃい」「おかえりなさい」という何気ないやりとりにも、故郷の人々との温かい絆を感じることができます。こうした故郷の人たちとの関係をこれからも大切に受け継いで欲しいと思います。

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