36℃の言葉。あなたの体温を伝えてほしい。 2014年度 日本福祉大学
第12回 高校生福祉文化賞 エッセイコンテスト入賞作品集
学長メッセージ
審査員の評価と感想
入賞者発表
第1分野 人とのふれあい
第2分野 あなたにとって家族とは?
第3分野 わたしが暮らすまち
第4分野 社会のなかの「どうして?」
学校賞
 
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入賞者発表
第2分野 あなたにとって家族とは?
最優秀賞 もう一つのマイホーム
三重県立宇治山田高等学校 三年 小林 聖弥

 家にいると、「ガタンゴトン」という音が聞こえてくる。私の家から徒歩二分くらいの場所に、駅員のいない小さな駅があるからだ。この駅には小学校の通学時からよくお世話になっている。駅周辺には山が広がり、近くには一本の川が流れている。ここにいると自分の家にいるかのような温かさを感じる。そう感じるのは、特に次のような場合だ。
 私は朝起きるのが苦手だ。毎日慌てて駅に向かう。川にゆっくり広がっていく波紋、「走れ走れ」と急がすような鳥のさえずり。橋を渡ると吹いてくるさわやかな風、それと共に後ろから額に汗を浮かべた友達もやってくる。そんな自分達をその駅は優しく迎えてくれる。電車に間に合ったのと、慣れ親しんだ駅にまた会えたことが入り混じって何だかホッとする。この時、自分はもう一つの「家」であるかのような温もりをこの駅から感じ取ることができる。
 「家」のようなこの駅の周辺では、温かい光景が沢山見られる。手を繋いで橋を渡る兄弟、駅まで迎えに来て子どもを待つ親、友達と笑い合いながら帰宅していく学生。中でも、ある一つの出来事が強く心に残っている。それは、部活帰りに先輩と二人で下校している時だった。踏切に乳母車がつっかえたのか、なかなか前に進めないお婆さんがいた。すると、先輩は自転車を私に預けて迷わずにお婆さんを助けに行った。いつもより眩しい先輩を見て、私は胸が一杯になった。
 夕方、日も暮れて暗くなってきた。学校帰りに到着すると、駅は電灯で辺りを照らして待っていてくれた。自分と同じように駅に降りていく人達。一日楽しかったのかニコニコしていたり、大変だったのか疲れた表情をしていたりと様々だ。そんな私達を駅は等しい輝きで包み込んでくれていた。夜になっても「カーンカーン」という音が鳴り響く。どんな時間でもどんな人でも駅は迎えてくれる。いつもお疲れ様。そして、また明日。

講評

 出だしの「家にいると『ガタンゴトン』という音が聞こえてくる」の部分をはじめとして、「川にゆっくり広がっていく波紋」「『走れ走れ』と急がすような鳥のさえずり」「もう一つの『家』であるかのような温もり…」のように、情景が目の前に浮かんで来るようなイキイキとした表現が非常に魅力的な作品です。誰もが使うありきたりの表現ではなく、作者自身の言葉を使って表現している点も評価されました。日本のいろいろな場所にあるのどかな風景を駅という定点で描写する観察眼の鋭さと、そこで暮らしている作者の思いが具体的に伝わってくる点に魅力を感じて、最優秀賞に選びました。

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