36℃の言葉。あなたの体温を伝えてほしい。 2014年度 日本福祉大学
第12回 高校生福祉文化賞 エッセイコンテスト入賞作品集
学長メッセージ
審査員の評価と感想
入賞者発表
第1分野 人とのふれあい
第2分野 あなたにとって家族とは?
第3分野 わたしが暮らすまち
第4分野 社会のなかの「どうして?」
学校賞
 
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入賞者発表
第1分野  人とのふれあい
優秀賞 私のじいちゃん
三重県立明野高等学校 一年 木下 穂乃香

 私には大嫌いな祖父がいた。顔を合わせるといつも喧嘩していたので、毎日会うのがうんざりだった。 
 そんな矢先、祖父の体調が悪化し入院することになった。その時ばかりは心配になりお見舞いに行った。いつもと変わらず顔を合わせると喧嘩になった。 
 「これは罰なんやで。みんなに優しくしやんかった罰やで」 
 ついカッとなってひどいことを言ってしまう。言いすぎたかなと思ったけど悔しくて謝れなかった。こういう頑固なところは祖父そっくりだ。入院中、祖父が「ありがとう」と言っているのをあまり耳にしたことがなかった。照れもあるのだろうが、何より自分の弱々しい姿に苛立ち、素直になれなかったのだろう。そんな祖父のことも大嫌いだった。 
 蝉の鳴き声が大きくなるにつれ、祖父の文句を言う声は小さくなっていった。嬉しい反面、今まで感じたことのない悲しみが込み上げてきた。日に日に小さくなる背中にはもう、喧嘩していた頃の面影はなかった。
 「じいちゃん。私のこと忘れたん?」
込み上げる感情を抑えるように聞いてみると、
 「忘れる訳ないやろ。いつもありがとう」
と予想もしなかった「ありがとう」が私の頭の中を真っ白にした。あれだけ頑固だった祖父の口から出た「ありがとう」はやけに儚かった。私と祖父の喧嘩に終わりを告げる合図のように聞こえた。終わりたくなかった。終わってほしくなかった。本当は祖父のことが嫌いなのではなく、祖父のことを嫌いと思ってしまう自分のことが大嫌いだったんだ。
 あれから二年。祖父のことが忘れられなくて福祉科に入学したなんて、本人の前では絶対に言えない。祖父は最期に「孫に笑ってほしかった」と言ったそうだ。その時流した涙は一生忘れない。こんな私のことを最期まで想ってくれていたじいちゃん。 
 「ごめんね、ありがとう、大好き」

講評

 いつも大好きなわけではなく、喧嘩もするし、時々嫌だと思ってしまう「おじいちゃん」と「自分」の気持ちのつながりや感情の変化がよく描かれている作品です。仲が良い話は書きやすいですし、実際にそういう話が多いですが、そうではない話は書きにくいものです。それを、情感を込めて表現している点を評価しました。祖父との葛藤を書くだけにとどまらず、祖父のことが忘れられなくて福祉科に入学した自分の体験につながっていることも良いと思います。そして、最後の部分に作者とじいちゃんの心のつながりが感じられて、読後感の良い作品に仕上がっています。

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