36℃の言葉。あなたの体温を伝えてほしい。 2014年度 日本福祉大学
第12回 高校生福祉文化賞 エッセイコンテスト入賞作品集
学長メッセージ
審査員の評価と感想
入賞者発表
第1分野 人とのふれあい
第2分野 あなたにとって家族とは?
第3分野 わたしが暮らすまち
第4分野 社会のなかの「どうして?」
学校賞
 
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入賞者発表
第1分野  人とのふれあい
審査員特別賞 思い出の動画
青森県立大湊高等学校 三年 柏 明莉

 母が残してくれたたくさんの写真がある。私の母は、去年の秋、病気で亡くなった。遺影にする写真を探していると、私と弟、父の写真はたくさん出てきたのに、どの写真にも母の姿はなかった。「お母さんは、撮る方が好きだったからね」と父は言った。けれども私は、母は写真を撮ることよりも、写真に写る、私達のことが、好きだったんだと思った。
 母が残した最後の写真は、母が病気になる直前に、撮られたものだ。そこから八年間、母が撮った写真は、一枚も無かった。入学式や卒業式。どこの家庭にもあるような記念写真さえ、八年間の空白の間には、一枚も無かった。私は、成人式や結婚式の写真も、そしてその後の写真も、全て母に撮ってほしかった。
 でも、私には母が写真を撮らなくなってから、母と過ごしたこの八年間の事は、まるで動画のように、頭の中に埋め込まれている。母が倒れた日のこと。車椅子を押した日のこと。買い物をした日のこと。すべて、私の頭の中に残っている。週末に早起きをして、買い物好きの母を、スーパーや洋服屋に連れて行った思い出。一緒にお風呂に入り、どっちが先に髪を洗うか、けんかした思い出。出歩いてはいけないと言われていたのに、車椅子に母を乗せ、病院の売店へ買い物に行った思い出。私の頭の中には、母との思い出が、動画としてしっかりと保存されている。きっと母は、私達の写真が撮れなくなってしまったから、代わりに自分の姿を、たくさんの動画として、私達の記憶の中に残してくれたんだと私は思う。
 母と過ごした、十七年間という短い時間の最後に、母が残してくれた動画。私達にさみしい思いをさせないよう母が残してくれた動画。私は自分に新しい家族ができた時、母との思い出の動画のように、たくさんの笑顔と思い出のある家庭を築き、母に感謝したい。

講評

 最近は、旅に出ても写真や動画を撮ることに気を取られて、自分の目で風景をじっくり見ない人が多くなっているという話を聞きます。そうではなくて、自分の目で見た景色を自分の心にきざむことを大切にしている作者の生き方や考え方に感動しました。そして、母親と過ごした日々のことや、それを通して感じた自分の思いを具体的に書いてある点が良いと思います。作者が母親と過ごしていた日々の光景が読んでいる私たちの目の前にも広がってくる、臨場感あふれる作品です。

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