36℃の言葉。あなたの体温を伝えてほしい。 2014年度 日本福祉大学
第12回 高校生福祉文化賞 エッセイコンテスト入賞作品集
学長メッセージ
審査員の評価と感想
入賞者発表
第1分野 人とのふれあい
第2分野 あなたにとって家族とは?
第3分野 わたしが暮らすまち
第4分野 社会のなかの「どうして?」
学校賞
 
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入賞者発表
第3分野 わたしが暮らすまち
最優秀賞 風に揺れる「中国結」
鹿児島市立鹿児島玉龍高等学校 三年 木田 夕菜

 差し出した彼女のスマートフォンの画面に映し出された一枚の写真。それを覗き込んだ私たちは、期せずして歓声を上げた。写真に写っていたのは、日本のアニメキャラクターのコスプレをした彼女の姿。
 「中国でも、日本のアニメ大好きですよ」
 頬を紅潮させた彼女はそう言って笑った。
 上海への研修旅行。領土問題をめぐる中国各地での過激なデモのニュースが繰り返される度に私の心は不安で固められていた。空港から向かうバスの車窓越しに見た上海の近代的な景色も私の心を躍らせてはくれなかった。
 現地の高校生との交流会。私たち日本の高校生は彼女たちの眼にはどう映っているのか。そればかり気になり、私たちの会話も笑顔もぎこちないまま時が過ぎていく、そんな時だった。私たちの一人が恐る恐る尋ねた。
 「日本のこと、何か知っていますか」
 彼女たちは、すぐには答えず、互いに目配せをしたかと思うと、そっと鞄からスマートフォンを取り出して私たちに見せた。
 不思議な感覚だった。この瞬間、私たちの心を隔てていた距離は一瞬にして縮まり、気が付けば、私は普通に笑えていた。ここにいるのは私と同じ高校生。私が可愛いと思うものを、目の前の彼女も同じく可愛いと感じる感性を持っている。相手が自分たちとは異なる文化・習慣をもつ異形の人に見える偏光眼鏡をかけたままでは、本当の姿は見えない。実際にふれあうことで相手の手の温かさも知った。無理解こそが最も忌むべきことなのだ。
 彼女たちが教えてくれた伝統工芸の「中国結」。不器用な私はうまくできずあたふたしたが、彼女たちは丁寧に優しく教えてくれた。私は何度「謝謝」を繰り返しただろう。その度に「ダイジョウブ」と微笑み返してくれた。
 あの時、一緒に作った少し不格好な「中国結」は、今も私の机の上に飾られている。窓を開ける度にそれは、大陸から東シナ海を渡ってくる西風に吹かれ、楽しげに揺れている。

講評

 「スマートフォン」や「アニメ」「コスプレ」といった現代の高校生に興味があるワードが自然に出ている、高校生らしいエッセイです。そうした現代的なワードから入って、伝統的な「中国結」に話を持っていく展開がいいですね。審査員全員が高い評価を付けて、最優秀賞に選ばれました。特に、書き出しがチャーミングで、その先の展開をワクワクしながら読み進めていくことができました。政治の世界とは違う場所で、高校生同士が心を開いて交流をしている様子がしっかり書かれており、読んでいて嬉しく感じました。こうした交流が世界各国で深まって欲しいと思います。

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