「二人も人がいてどうして鍋一つきちんと見れないの!」 怒っているのはお母さん。怒られているのは私とおばあちゃん。 「ごめんなさーい」 おどけたように言って、私たちは顔を見合わせて苦笑い。お母さんに買い物に行ってる間見ておいてと頼まれた煮物の鍋を二人してテレビに夢中になって忘れてしまったのだ。 「本当、そういうしっかりしてないところがそっくりね」 どうやら私はおばあちゃん似らしい。勉強中、ライトをつけたまま寝てしまう私とテレビをつけたままソファで寝てしまうおばあちゃん。そういえばおつかいを頼まれた私がにんじんを買い忘れ、それを買いに行ったおばあちゃんが「おいしそうだったから」といちごを買って肝心のにんじんを忘れるなんてこともあった。うっかりの血を引き継いだようだ。 そんなおばあちゃんがかれこれ六年間、習っているものがある。“どじょうすくい”だ。鼻に五円玉をつけ、口のまわりには真っ黒なひげを描く。頭に豆しぼりをかぶって、竹ざるを持って躍る姿に私はいつも大爆笑だ。一緒に旅行に行くときは道具一式を持ってきて上達した姿を見せてくれた。 「見てるだけで恥ずかしいからやめてよ」 そんなおばあちゃんに最初、お母さんは反対だった。それでもおばあちゃんはやめなかった。 「いつか人前で見せられるくらいになったら老人ホームに公演に行きたいの」 それを聞いたお母さんは 「自分だってもう老人じゃない」 と言いながらも「腰をもっと低く!」などと、今では指導までしている。 人を笑顔にしようと躍る姿はひょうきんながらかっこいい。そんなかっこいいところも引き継げたらいい。でもどじょうすくいはできないかな。
ユーモアあふれ、心温まる作品です。作者とお母さん、おばあちゃんのやりとりを大変楽しく読ませてもらいました。お母さんやおばあちゃんの会話や情景が具体的に書かれているところがいいですね。ささやかでも、自分が体験して感じたことを素直な気持ちで描いている点が、この作品の魅力となっています。『二代目うっかり』というタイトルも独創的で印象に残り、この作品の魅力をさらに高めています。第一分野の「人・家族とのふれあい」というテーマにふさわしい作品と審査員全員が評価して、優秀賞に選びました。