36℃の言葉。あなたの体温を伝えてほしい。 2012年度 日本福祉大学 第10回 高校生福祉文化賞 エッセイコンテスト入賞作品集
学長メッセージ
審査員の評価と感想
入賞者発表
第1分野 人とのふれあい
第2分野 あなたにとって家族とは?
第3分野 わたしが暮らすまち
第4分野 社会のなかの「どうして?」
学校賞
 
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入賞者発表
第3分野 わたしが暮らすまち
最優秀賞 私の原点 ―ふるさと広島の街角―
盈進高等学校 2年 重政 陽美

 「今一番、ほしいものは何?」「放射能のない世界」。春休み、福島原発の事故による放射線被害から避難してきたご家族との交流会。私の質問に小学5年生の男子が小さい声で答えた。「家族で、避難する、しないで言い争い、けんかすることもあった」とその子のお母さん。新聞で読んだことを生で聞き、体が震えた。放射線は家族の絆まで壊し、大切なふるさとを奪っている。
 「もう誰にも自分と同じ思いをさせてはならない」。広島・長崎の惨禍を生き抜いてきた被爆者の素朴で崇高な願い。私は広島に暮らす人として、このメッセージに誇りを感じ、そして、後世にどうしても届けなければならないと思っている。だから私はこの夏も、核廃絶の署名活動で街角に立つ。それが私の原点。
 これは他校と合同の活動。他校の仲間から趣意書の原案が送られてきた時、「核兵器廃絶」のみを訴える文面に私は納得できなかった。現在の放射線被害者の思いが入っていなかったからだ。
 正式な趣意書は、合同の事前学習会を開き、その場で討論して作成する。私は、福島の方々の不安や怒り、避難者の悲しみを、他校の仲間に必死に伝えた。そして次の言葉を盛り込むことができた。
 「何よりも重い人間の命」「現在、日本は、67年前のあの日と同じように、放射能が環境や人体に深刻な影響を及ぼすという事実に直面しています。『核と人類は共存できない』。今、未来の社会を担う私たち中高生が、この言葉を胸に行動を起こします」
 額に汗かき、一筆一筆、炎天下で署名を集める。その行為は、最小効果しかないかもしれない。でも、核という最大効果をもたらす巨大なエネルギーで亡くなった命と現在もそれによって脅かされている命を思い、私は街角に立つ。そして、私の暮らす広島を原点にすえ、福島をとらえ、未来を考える。それが世界で唯一の、核兵器被爆国であり、原発事故による被曝国となったこの国に暮らす私の責任であり、義務だと思うからだ。

講評

 福島原発の事故と広島・長崎の被爆をからめて、自分の主張をコンパクトにうまくまとめています。独善的な意見になったり、感情に流されるのではなく、しっかりロジックを組み立てて、わかりやすく書いている点を評価しました。こうしたことができるのも、日頃からお友だちと話をして、考えをまとめているのでしょう。そして、単に意見を述べるだけでなく、「核廃絶の署名活動で街角に立つ」という行動を実際にしていること。放射線被害者の思いを趣意書に盛り込んだ具体的なエピソードを書いていることも、このエッセイの魅力を高めています。

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