電車を降りるとき、靴を脱いだとき、部屋を出るとき…決まって私は後ろを振り返る。忘れ物はないか?靴は揃えたか?電気は消したか?その時々、頭の中で繰り返される、七文字の呪文がある。「あとみよそわか、あとみよそわか」 これは私が小さい頃から、祖母に繰り返し言われていた言葉だ。部屋を片付けずに出て行ったり、靴を脱ぎ散らかしていこうとすると、すかさず祖母の口からこの言葉が飛び出す。「あとみよそわかだよ!」 意味はよくわからないまま、「自分の行いを振り返りなさい」というような小言だと解釈していた。ことあるごとに祖母が繰り返すこの言葉を、私は年が経つにつれて、うるさい小言だと思うようになっていった。 小言を言うときは怖いおばあちゃんだったが、祖母は背筋がぴんと伸びて、趣味で描いている絵は吸い込まれそうなほど上手で、私にとって自慢のおばあちゃんでもあった。 そんな祖母が昨年突然、心筋梗塞で亡くなった。最期には苦しむことなく、まさに大往生だった。祖母にもう二度と会えなくなってしまった…涙はあふれて止まらず、心は沈んだが、私はふと思い立って、祖母に言われていた言葉の本当の意味を調べることにした。 するとどうやら、この言葉は江戸時代にはあった言葉で、「あとみよそわか」の「そわか」には、「成就あれ」という意味があるらしい。物事が成就するかどうか後を見て振り返り、自分の行動に責任を持ちなさい…この言葉には、そんなメッセージが隠されていたのだった。 うるさく聞き流すようになっていた祖母の言葉にこんな意味があったとは…胸がいっぱいになって、目の奥がつんとした。 「あとみよそわか、あとみよそわか」唱えるたびに、思春期の私のおぼつかない足取りが、そっと祖母のあたたかい手に支えられているのを感じた。
読み終えた後、思わず「あとみよそわか、あとみよそわか」と口ずさんでしまうほど、インパクトのある作品です。オリジナルの体験を通して、言葉の力をうまく表現している点に魅力を感じました。おばあちゃんから受け継がれた呪文のような言葉と、その言葉に込められた気持ちを作者が受け継いでいく温かい気持ちが表現されています。文章のリズムも良く、ユーモラスな感じもあって、楽しく読むことができました。