36℃の言葉。あなたの体温を伝えてほしい。 2012年度 日本福祉大学 第10回 高校生福祉文化賞 エッセイコンテスト入賞作品集
学長メッセージ
審査員の評価と感想
入賞者発表
第1分野 人とのふれあい
第2分野 あなたにとって家族とは?
第3分野 わたしが暮らすまち
第4分野 社会のなかの「どうして?」
学校賞
 
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入賞者発表
第2分野 あなたにとって家族とは?
審査員特別賞 3%の中で
愛知県立豊丘高等学校 3年 伊藤 光

 ――たった、3%?
 真上から何か重い物でも落ちてきたかの様だった。今の日本の失業率は、たった3%。授業中、この言葉が耳に入った瞬間、言葉では表せない程黒く、冷たく、悲しい何かが私の中から込み上げてきた。
 私は「たった3%」の中にいた。
 ある日、突然父が解雇された。それは、まだ未熟な高校生の私が理解するにはあまりにも唐突で、衝撃的すぎる事態だった。これからどうするの?ご飯は?習い事は?受験だってあるのに…自分勝手な思いを巡らすことしかできない私に、大丈夫だ、と父は笑った。
 だが、父の笑顔とは裏腹に、生活は日を追うごとに苦しくなった。母が仕事に出る日は倍近くに増え、顔には疲労の色が隠せなかった。家に帰る度、「どうして私の父が選ばれたりしたんだろうか」と、答えの出ない質問をする毎日だった。
 私が友人と遊ぶ時間は、あの日以来大きく減っていった。その分、家族と過ごす時間が増えた。そこで私は、忘れかけていた家族の温かみに触れた。全員で囲む食卓や、何気ない会話の一つ一つまでもが、とても温かく感じたのだ。干からびた私の心に、その温かさは痛い程染みた。
 親友でも、仲間でも、決して代えられないものが家族にはある。こんな大切なことを忘れていたのは、一体いつからだろう。
 そういえば、小さい頃から父が言っていた。
「お金なんてたくさんいらない。貧しくても、裕福な生活をしよう」
この言葉の意味が、分かった気がした。
 「たった3%」でもいい。どんなことも共有できる家族がいる。ただそれだけで、人はこんなにも温かく、強くなれる。私の家族が、そう教えてくれた。

講評

 家族の中だけの話を取り上げるのではなく、家族のつながりに社会性を加えた切り口の良さを評価しました。その後の生活が変化して家族の温かさを再認識した様子が具体的に描かれている点もいいと思います。また、お父さんの「お金なんてたくさんいらない。貧しくても、裕福な生活をしよう」という言葉から、お父さんの温かい人柄が伝わってきます。小さい時にはわからなかったその言葉が、作者が成長したことで意味を理解し、しっかり前向きに受け止めた作者の気持ちがストレートに伝わってくる作品になったと思います。

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