私の得意料理は、豚の角煮と茶碗蒸し。 高一の七月から料理を始めた。当時はカレーとシチューくらいしか作れなかった。そんな私に料理を教えてくれたのは、近くに住む祖母だった。 祖母は忙しい母の代わりに、週に一度料理を作って届けてくれている。料理に興味を持ち始めてから、私は「届け」の日に、祖母から料理を教わるようになった。カツの揚げ方や魚のさばき方、それだけではなく、フライパンの洗い方や余熱の上手な使い方、キャベツの芯や大根の葉の、無駄のない使い方。祖母が教えてくれるのは、料理の本には載っていない、まさに「おばあちゃんの知恵」の数々だ。 祖母と料理をしながら、いろいろな話をする。学校でのエピソード、友達と遊びに行った時のこと、部活のこと。祖母はいつもニコニコと話を聞いてくれて、楽しい話は共有できるし、悩みごとは半減する。祖母も私にいろいろな話をしてくれる。命の有難みについて話を聞くと、食材ひとつひとつに命を感じるようになる。母の小さい頃の話や、私達三人姉妹の思い出話を聞くと、なんとなく照れくさくなって、胸のどこかが熱くなる。 祖母と料理をするようになってから、感謝することが増えた。母が作ってくれる料理を食べると、「忙しい中ありがとう」と思えるようになった。スーパーで食材を買いに行って目当ての食材が見つかると、「一生懸命作ってくれた農家の方々、ありがとう」と思えるようになった。料理の上達も嬉しいが、何よりいろんなことに感謝できるようになったことが、一番嬉しい。 学校や部活を終えた私は、今日も家路を急ぐ。家で少し休憩してから、祖母の家の扉を開く。 「おじゃましまーす」 この一声が開始の合図。さて、今夜は何を作ろうか。
家庭の温もりが感じられる良い作品です。「フライパンの洗い方や余熱の上手な使い方」「キャベツの芯や大根の葉の、無駄のない使い方」といった具体的な表現を織り交ぜながら、よくまとまっています。そして、最近は失われつつある暮らしの伝承が、まだきちんとされていること。しかも、都市部で、祖母から孫へ、しっかりコミュニケーションを取りながら受け継がれていることの素晴らしさを、多くの方に読んでいただきたいと感じました。ここに、おばあちゃんの言葉が加われば、さらに良くなると思います。