四季折々で様々な表情を見せる山々に囲まれた雄大な阿蘇。私は生まれてから十七年間、ずっとこの場所で暮らしています。私にとっては当たり前のようにある綺麗な水や川、虫や動物、澄んだ空気。それらを体感するために、連日たくさんの観光客が訪れています。日本人だけでなく外国人も。阿蘇は世界中の人を惹き付ける魅力的な場所です。その素晴らしい自然を維持していくために、阿蘇では昔から野焼きというものが行われています。野焼きという言葉は小さい頃からよく耳にしていたけれども、それがどのように行われているのかはあまり知りませんでした。 そんな私に今年の三月、野焼きを体験する機会が訪れました。実際に体験してみると、想像以上に危険で大変でした。まず干し草を束ねて、それに火を点け、山の草に火を移します。そして干し草の束で火を広げていきます。山に広がった火はたちまち人の何倍もの高さになり、少し近づいただけでも、まるで全身に火を被っているかのようでした。息も十分にできず目を開けるのも辛いものでした。風向きを考えて移動しないと火が自分の方へ向かってきます。気を張っていないと、いつ火に襲われるか分からない状況でした。その時は、私はボランティアとして、二時間という短い間の体験でしたが、それでもどっと疲れてしまいました。しかし実際はさらに広い面積を少ない人数で行わなければなりません。 私が当たり前にあると思っていた山は、危険と隣り合わせになりながらも、野焼きをしてくれる人がいるからこそあるのだと分かりました。もし野焼きをしなければ自然のサイクルは崩れてしまい、私達の生活にも影響を及ぼします。だから、今ある自然は当たり前だと思ってはいけないのかもしれません。誰かの努力があるから、私は恵まれた環境の中で暮らすことができています。阿蘇は自然だけではなく、影で支えてくれる人々も世界に誇ることのできるものだと思います。
阿蘇の野焼きを体験したことを通して、何が大切なのかを学んだ作者の気持ちが伝わってくるよいエッセイです。単純に「自然を守る」のではなく、「危険と隣り合わせになりながらも、野焼きをする人たちがいるからこそ」自然を守れることに気付いた作者の感動がリアルに伝わってきます。阿蘇のすばらしさが読者にしっかり伝わってきますし、野焼きの描写も迫力があってよいと思います。